第11話 僕って……
そこは、メイレンの部族が住む集落だった。
「おばぁちゃん、ただいま~」
「メイレン。おばあ様に向かってまたそんな口の利き方」
「お母様。来てたのっ?」
「来ていましたよ。それで? 後ろの方々は誰です?」
「あ……えっと、そのぅ……」
「メイレンッ! よそ者をいれたのですねっ! あなたには、失望しました。
村の安全をなんだと思っているのですっ!?」
「あ~すみません。僕たち、河を渡る方法を聞いたらすぐに出て行きますから。」
思わず僕は口を挟んだ。
「河? あぁ。もしかして、アシクモ河のことかい?」
おばあさんと思われる人物が言ってきた。
「アシクモ河?」
僕が聞き返そうとしていると、メイレンが横から言った。
「そうだよ。おばあちゃん。2番に通り抜けようとしているみたいだった」
「じゃあ、小型潜水艦だねぇ」
どうやら、勝手に話が進んでいっている。
「おばあ様まで!」
メイレンのお母さんと思われる女性がとがめるような口調で言ったのに対して
レオンが口を挟んだ。
「すみません。どうしても渡る必要があるので……」
するとその声を聞いて、レオンの方を見たメイレンのお母さんは、そのまま固まった。そして、レオンを凝視している。
「あら。いい男だねぇ」
おばあさんがその後ろから言った。
どうやら、レオンの男前には年齢制限が無いようだ。
ぱっと目をそらして、メイレンの母親はつぶやいた。
「でも、よそ者を集落に入れるなんて……まして河を渡る手伝いなんて……」
そこにレオンが
「すみません……。ダメでしょうか……。本当に困っているんです」
と言った。
レオンのキラキラ光線にメイレンの母親は耐え切れなかったようだ。
こうして、僕らは協力を得たかに見えた。
しかし、部族の男たちが話を聞いて集まってきた。
「おい。なんで、俺たちが無償でこんな危険なことにつきあわにゃいかんのじゃ?」
「そうだ。そうだ」
集落の男たちは断固反対の様子を見せている。
とりあえず、このことは保留になった。
どうやら、皆で小屋を作っている最中に居合わせたようだったので、
とりあえず僕たちもそれを手伝うことにした。
なんとしても、認めてもらって河を渡らなくてはならない。
そのためには最善の策に思えた。
分担は、レオンとトルキッシュが丸太を運ぶ係り。
エバァと僕が屋根に使う草(藁みたいだけど、赤い)を運ぶ係り。
だけど、この作業で事件が起こるなんて誰が想像しただろう?
小屋を作るための丸太は一時的に、別の小屋の前に立てかけてあった。
ところが、一人の男が丸太を運ぶ際に他の立てかけていた丸太を動かしてしまったのか――、一本の丸太が隣の丸太にあたったかと思うと、総崩れとなって丸太を運ぼうとしていた男に一度に降りそそぎそうになった。
それを見たレオンが弾みで
「ジェイサムっ!」
と叫ぶ。
金色の狼が現れて、男のシャツの襟を銜くわえると、ひとっとびで沢山の丸太から男を救った。その様子を見た集落の男たちは、レオンを見て
次に狼を見、唖然とすると
「神様じゃ! 神様がおいでなすった」
と叫び始めた。
か……神様?
うそぉ。なんか拝んでるよっ!!
「神様にお手伝いをさせるなんて、わしらはなんて罰当たりじゃぁっ!!」
「すぐに、河を渡れるよう手配しますけぇ、ちょっとお待ち下さい!!」
「わっしらを見捨てんとってくださいっ!!」
「神様ぁ~」
「神様ぁ~!!」
レオンはうろたえてオロオロしている。
それとは対照的に、トルキッシュはそれを見て、腹を抱えて笑っているし、
エバァはそんな二人を見て、呆れたような顔をしている。
僕はそんな様子を眺めながら、唖然とする他なかった。
その後、僕たちは一つの小屋に通された。どうやら、そこで一番綺麗な小屋らしい。
最上級の御もてなしというわけだ。
だが、トルキッシュとエバァは「小屋の中でじっとしているなんて耐えられないっ!」と外に探索に行ってしまった。というわけで、小屋に残っているのは、僕とレオンとサイアスだけだ。
小屋の中は案外広くて、綺麗だった。
その小屋の中で僕はさっきから考えていた。
なぜなら、不思議で仕方が無かったからだ。
なんで、神様なんて呼ばれたんだろう?
どうして、金色の狼が現れたくらいで拝まれるんだ?
だって、この世界には魔道具はいっぱいあるんだろ?
だったら、見慣れてるはずじゃないか!!
「ねぇ、レオン。ここって魔道具がいっぱい存在してるんだよね?」
僕がレオンに向かって言うと
「え? なんでですか?」
と逆に問いかけられた。
「え? だって、サイアスが言ったんだ。この世界は魔道具がいっぱいあるし、道具はしゃべってるって……」
そうだよっ!!この世界では道具はほとんどしゃべってるんだろ?
だったら、こんなことには……
その時、メイレンが何か飲み物の入ったコップを人数分持って小屋に入ってきた。
「何々? なんの話?」
メイレンは男たちと違って今まで通りに接してくる。
「あんたたち、なんか変だとは思ってたけど、面白い術が使えるのね!!
もしかして、魔導師かなんか? 私、一回しか見たことないけど……絶対そうでしょ?」
笑ってメイレンは言った。
ま……魔導師? この世界、そんなものまでいるわけ?
「いや、魔導師じゃない……と思うな。それに、別にたいした話はしてないから……」
僕が言うと、メイレンが
「何よ~。たいした話じゃないなら、聞かせてよ!」
と言ってきた。僕は強引さに押されて
「あ~いや、だからね。この世界って道具はしゃべってるのは普通だから、あんな……」
そこまで言ったとき、メイレンが異様なものを見るような目つきで言った。
「何言ってるの? あんた。しゃべる道具なんて、そうそう無いわよ」
「え?」
僕は一瞬で目が点になる。
「魔道具の中でもしゃべる道具なんてめずらしいんじゃない?」
メイレンの言葉にショックを受けながら
「……じゃあ、人の形になる道具は?」
と聞いた。すると……
「貴重すぎて、そんなの‘作り手’のところにしか、いないわよ。だって、‘作り手’の具現能力が必要なんだから。それか、作り手が譲った人物かな。いずれにしろ、だいたいは貴族とか王族とかとにかく金持ちのところね。何? あんた、欲しいの? 無理よ。普通は」
いや、無理どころか目の前にいます……。というか、じゃあ、なんで、こんなにいっぱいいるんだよ!!
貴重なんじゃないのか?
そこまで話したとき、メイレンの母親が呼ぶ声が聞こえて、メイレンは返事をして小屋を出て行ってしまった。
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