第10話 滝の先には……

そんなこんなで出発することになった僕たちは、川沿いを下っていた。

だが、しばらく川沿いを歩いていた時に、横の川を見てエバァが言った。


「川をうまく使っていけば、早く海に着くかも……」


その言葉にサイアスが尋ねる。


『どういうことだ?』


「こういうこと」


そう言うと、エバァは近くにあった木の枝から葉っぱを一枚とった。


何が始まるのだろう……?


僕はエバァの行動を見つめた。

エバァは、とったその葉っぱに手をかざしながらつぶやくように言う。


「リテラス・グロウ・バイラス」


すると、葉っぱがだんだん大きくなって……

とてつもなく巨大になっていく。


「ど……どうなってるの!? これっ!!」


目の前に、超がつく巨大な葉っぱが出現した。


「すごいだろ~♪ えっへん!」


エバァが胸を張って言っている。


「これに乗っていけば早いと思うんだよね」


エバァはいい案だろ? とでも言うようにこちらを見ている。

確かに、目の前の葉っぱを見ると人が3人乗れる小船くらいの大きさではある。

しかし、葉っぱに乗って川を下ろうとしている高校生なんて僕くらいのものじゃないだろうか?


「エバァは生物の生命力を増幅する力があるんです」


レオンが説明してくれた。


「いわゆる特殊系統ですね」


特殊系統?


「何それ?」


僕が尋ねると、


「魔道具にはそれぞれ系統があるんです……って言ってませんでしたっけ?」


レオンがあれ~? というように頭を掻いている。


「聞いてないよ! ってことは、レオンたちにも系統があるってこと?」


僕が言うと、


「そうです。俺は光系です。ちなみに、トルキッシュは音系です」


「じゃあ、サイアスは?」


「サイアスは……あの技は闇系統でしたが……」


『俺は炎系だ』


「えっ? でも、あの技は……」


『無駄口たたいてないで出発するぞ』


無理やりレオンの言葉をさえぎったような気がした。

サイアスは何か隠している。

だが、聞いても教えてくれはしないに違いない。



僕たちは、葉っぱに二つに分かれて乗り込んだ。

前を行くのはエバァとレオン。後ろは僕とトルキッシュとサイアス。

サイアスはマントの姿だから勘定に入れる必要ないかもしれないが……。

この二組に分かれたのには、わけがある。


僕が船の扱い方を知らないと言ったら、トルキッシュが「兄貴分の自分が弟分の船を操縦してやる」と言って聞かなかったからである。

なだらかな川の流れに乗ってしばらく進んでいくと、急に流れが速くなった。


どうしたんだろう? と見ると、目の前の川が途切れている。

正確に言うと……下に水が落ちている。


……滝だっっ!!


「落ちっ……」


後は声にならなかった。

水と共に僕たちの船は、落ちていく。だが、水に乗っているように一緒にだ。


「ぎゃっ……」


誰かが叫んでいるのか?


「っほ~いっ! たっのしいなぁ~っっ!! 章平っ!」


この声はトルキッシュ!!

こんな状況まで楽しんでるのかっ!

すごすぎる……。やっぱ、只者じゃない。

葉っぱは滝の水と共に並んで走っていた。

そして、滝の半分まで来たとき

ふわっと葉っぱが浮いた。

トルキッシュが葉っぱの前の方を持ち上げたらしく、

空気抵抗で空中に放り出されたのだ。


「うっっ……」


ぎゃーっっと叫びたかったが、本当に恐いときは声すら出ないものだ。

僕は叫べずに青い顔をしたまま、必死に葉っぱにしがみつく。

遊園地でも、こんな恐いジェットコースター乗ったことが無い……。


しかも、命の保障はなしだ。


死ぬときは走馬灯のように思い出が……っていうけど、

葉っぱの揺れが激しすぎて、それどころではない。

摑つかまっているのが精一杯だ。

水面が目前にせまってきた。


もうダメだ!


と思ったそのとき、なにか柔らかいものの上に落ちた感覚があって、

僕たちは葉っぱの船ごとポーンっと上に跳ねた。

もう一度、柔らかいものの上に落ちる。

何度かそれを繰り返すと、だんだん飛び跳ねる高さが低くなってきた。

なんだか、トランポリンみたいだ。

しかし、なんだ? あれは?

白い、巨大な風船みたいなものが下にある。

ようやく、僕たちが柔らかいものの上に立つと、

レオンとエバァが待っていた。

トルキッシュも僕の後ろから来る。


「これは、なんなの?」


僕が足の下を指差すと、


「あ、紹介するね。俺の相棒のミドリコ。メス。推定17歳」


エバァが言った。

僕たちが下に下りてから、それの正体がわかった。


「ミドリコ。もういいよ」


すると、白いものが起き上がった。

仰向けの状態だったらしい。

それを見て、僕はまたまた仰天した。


緑色の巨大なカエル……


黒目がぱっちりでかわいいね……とか言ってる場合じゃない。

なんだ? このビルより大きなカエルはっ!?


「乗っていきたいとこなんだけど、ミドリコの背中は毒を出してるから乗れないんだ。ってことで、ディクラス・グロウ・バイラス」


すると、カエルはどんどん小さくなっていく。


伸縮自在なんですかっ!?


すごい。この世界ってなんでもありかっ?

そのまま、無事エバァの手にミドリコは収容された。

レオンの狼と同じだ。

ということは、あれも召喚されたものなのか?


それから、僕らはまた川沿いを歩いていった。


妙に川の深さが浅かったから歩いていくほかなかったのだ。

それにしても、妙だ……。

少し行っただけで、流れがだんだん狭くなっていく。

おかしい。狭くなる一方の川に沿って急いで歩いていく。


「…………!」


理由がわかって僕らは立ち止まった。

そして、唖然とした。

そこには、横に広がる川があった。

一見すると湖より広いそれは、川の向こう側でまた、細い川へとなって続いていた。

どうやら、太い河に合流してまた分かれているらしい。

僕たちは葉っぱの船に乗ろうとして、その横向きの河に巨大にした葉っぱを置いた。

すると、僕たちを乗せる前にものすごい勢いで葉っぱが中央まで吸い込まれるように

進み、そこから水中に吸い込まれるように消えた。


「な……何? どうなってるの? これ」


僕が言うと、皆、首をかしげて「さぁ?」と言っている。

そのとき


「この河は渡れないわよ。専用の船じゃないとね」


後ろから声がした。


「誰?」


僕が言うと、


「そっちこそ誰なのよ? ここは、私たちの部族がいるから住むならよそにしてよ」


その子はそう言った。茶色いショートカットの髪の女の子がそこに立っていた。

服のせいで一見少年のようにも見えるが、とてもかわいい。

腰に剣をさして、薄くてとても軽そうな赤い防具に身を包んでいる。


「あ、住むんじゃなくて僕たち旅をしてるんだ。それでこの河を渡りたいんだけど……」


「すみません。渡る方法を知りたいのですが……お嬢さん」


僕の言葉を補足するように、レオンが隣から言った。

その子はレオンを見ると、目を見開いて驚いている。


そして、そのまま


「あんた、名前は?」


と聞いた。


「レオンです」


レオンが答える。


「レオン……。いい名前だね。気に入った。私の名前はメイレン。そうだね……教えてやるよ。渡る方法! ついといで」


そうして、僕たちはメイレンに付いて行った。


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