第7話 街

とりあえず、街に行って食料と水、それと野宿用の毛布を揃えることになった。

お金はサイアスがどこからか出してきた。

レオンが言うには、旅の支度には充分のお金らしい。

見たことない銀色の貨幣が10枚。貨幣には花冠をした女の人の絵が描いてある。

それと、赤い文字が印刷された紙幣3枚。こっちは禿げた男の人が描いてある。

隅の方に1℃って書いてあるけど……温度?

いや、まさかね……。でも、なんて読むんだろ?


ここで、一つ判明したことがある。

なんと、レオンは人型になっていないと自分で動くことはできないということだ。


『あれっ? 言いませんでしたっけ? 俺』


レオンはあれ~? おかしいな~? とか言いながら誤魔化してたけど、

そんなんじゃ、一週間なんてあっという間に過ぎちゃうじゃないか!?

やっぱり、ちょっとでも遠くに行った方がいい気がする。

僕はやっぱり、レオンと一緒に来てよかったと思った。

サイアスには悪いけど、これで後悔することはないと思うとほっとする。

街に行くために森に入ると、木が生い茂っているが光が差し込んで結構明るかった。

なんだか、幸先よさそうだ。

森の中を歩きながら、サイアスとレオンに買うものの確認をする。


「え~っと、食料、それと水。……と毛布。だけでよかったよね」


僕が言うと、


『ちょっと待ってください。俺を入れるベルトを買った方がよくないですか?』


レオンが言った。


「……そうだね。手に持ってて、落としたら大変だしね」


僕が言うと


『そうだな。お前は軟弱そうだからな。すぐにレオンを落としそうだ』


サイアスが嫌味を言ってきた。

めちゃめちゃヤな奴だ。しかも、言い返せないだけに余計。

運動は嫌いじゃないけど、受験でほとんど運動という運動してないし……。


あれ? でもよく考えたら、あてもなく歩き回るより地図とか見ていったほうがいいんじゃ?


「ねぇ。サイアス。地図とか買わなくていいの? どこに行くか決まってないだろ?」


僕が言うと、


『地図? 必要ないな』


サイアスが答えた。それを聞いて、レオンが


『なんですか? 地図って?』


とサイアスに聞いた。


『建物の場所や道の場所が記してある紙だ』


サイアスが説明している。でも、説明するようなものか?

しかも、必要ないって……。

サイアスが完璧に把握しているということだろうか?


『章平』


サイアスが突然僕の名前を呼んだ。


「えっっ? 何っっ?」


僕はびっくりして慌てて返事をした。

サイアスが再び口を開く。


『言い忘れていたが、ここでは道を信用するな』


「は? どういうこと?」


僕が言うと、


『めんどくさいな。レオン。章平にこの世界での建物のことを教えてやれ』


サイアスがレオンに言う。


「建物って、あの建物? 何? 建物も動くとか?」


僕が言うと


『え? 章平は見たことないんですか!? 建物の大移動をっ!』


建物の大移動? 民族大移動みたいだな……。


「見たことないよ。この世界、建物まで動くんだ……」


僕が言うと、レオンは


『あ、でもそう簡単には動きませんよ。契約がありますから……』


と言い添える。


「契約?」


僕が聞き返すと、


『人間と契約してるんですよ。何ヶ月間はここに動かずにいてくれ。その代わり、いろんなものが付かないように磨くって条件で。しかも……あいつら、あんまり行動早くないんですよ。むしろ、とっても遅いんです』


レオンが答える。僕は疑問に思ってまた質問した。


「じゃあ、地図くらいあるんじゃないの?」


すると、サイアスが言った。


『あっても、意味がない。ここは遊牧民族の多い地域だからな』


「どういうこと?」


僕が聞くと、レオンが


『あちゃ~。そうでした。ってことは、建物も常に動いてますね。やっかいだなぁ』


と言った。


「え? どうして常に動くの? 今さっき契約してるって……」


僕が言うと


『契約してますよ。だから、遊牧民族と一緒になって移動していくんです』


レオンが答えてくれる。

っていうか、なにそれ? ってことは、建物が動いてるってことで……。


えぇぇぇっ!? 何を目印に進むんだよっ! それっ!!


「どうやって、道を選ぶんだよっ!!」


僕が叫ぶと、サイアスが言った。


『……勘だ』


沈黙……。って、冗談だろっ!


レオンが言った。


『まぁ、川沿いに下っていけば海に出られるんじゃないでしょうか?』


「そ……そうだね……」


少なくとも、勘よりはいいはずだ。僕はそう思った。

サイアスと二人で逃げていたら、勘で逃げたのだろうか?

よ……よかった……レオンと一緒に来て……。

心底そう思った。


何事もなく森を抜けると、そこには沢山の建物が……建っている……んじゃなかったのか?

サイアスっ!! お前、そう言っただろ?


『あぁ、動いたな』


早速ですかっ!


『見ろ。あそこに引きずった後がある。あっちの方向だ』


『このカンジだと、そう遠くはないですね』


サイアスとレオンが言って、僕たちはそこからまた更に進んで行った。

まもなく街が見えてきた。

確かにビルのような建物がいっぱいある……と思ったら……え? 壁だけ?

すんごい薄っぺらいんだけど……? まさか、森と隔てているだけ?

本当にこの壁なんの役に立ってるんだろ?

しかも……店は……


これは本当に街か? どう見ても、屋台。それか、祭りのときの出店の列みたいだぞっ!

とりあえず、店先にある果物やら肉やらを見ていったが、なんだこれはっ!?

いったい、何の果物だ? これ、何の肉だ? 見たことないものが並んでいる。

品物名を見ても、書いてあるものがわからない。……というか、しゃべっている言葉すらわからない。


どうすりゃいいんだっ!!


かろうじて、りんごらしき果物(だけど、紫色)と「ギギガガ」(と店の人が指差して言っていた)肉を購入した。多分、食べれるはずだ。

すると、サイアスが背中を押して人のいない方へと歩かされる。


『おいっ』


建物もどきの壁の間に入った人のいないところで、サイアスが声をかけてきた。


「何?」


僕が言うと、


『お前、食べ物を買うんじゃなかったのか』


サイアスが言った。


「え? だから、食べ物を買っただろ?」


僕が言うと


『もしかして、言葉がわからなかったのか?』


サイアスが言った。


「そうだ! ギギガガって何の肉なの? おいしい?」


僕が言うと、サイアスはしばらく黙って、それから言った。


『食べるものじゃない』


「え……?」


僕が聞き返すと、サイアスはまた言った。


『食べ物じゃなくて、薬だ』


「薬? だって、肉だよ?」


僕が言うと、


『食べるとお腹をこわすぞ』


サイアスが言った。


『レオン。どういうこと?』


僕はサイアスに聞いても埒があきそうにないのでレオンに聞いた。すると、


『あ~。それは、打ち身とかによく効く肉ですね。湿布薬です』


とあっさり答えてくれた。……って、ちょっと待て!? 湿布だって?


「じゃ、こっちの果物は? これは食べ物だろ?」


僕が言うと、レオンがまた答えてくれた。


『そっちは毒消し用の果物ですねぇ。食べてもいいですが……まずいですよ? それ』


マジですか!? でも、言葉通じないんだよっ!! どうしよう……。

どうやって買い物するんだよっ。

すると、サイアスが


『しょうがない。まったく、世話がやけるな』


と言いながら、ふわりと浮き上がると僕の額に何かを付けた。


「何したんだよ?」


僕が言うと、


『言葉がわかるようにしただけだ』


と言われた。レオンがサイアスに言う。


『あなたと連動させたんですか?』


『……まぁな』


サイアスが答える。


「連動って?」


僕が聞くと、レオンが答えてくれた。


『つまり、サイアスの言語能力をあなたも使えるようにしたんです。


今、額につけたのがその回線の役目を果たしてくれるもので、サイアスの知っているものなら、あなたにも瞬時に理解できるようになったわけです』


「そんなすごいものがあるんだ!?」


僕は感心して言ったが、それを最初からつけてくれていれば、こんなことにはならなかったんじゃないのか?

すると、それを察したようにレオンが言った。


『ただし、連動させる術は難しいので、サイアスの魔力が一時的に大きく減るんです。だから、今までしなかったんですよ。たぶん……章平を守るために』


サイアスはそれを聞いても何も言わない。


「そうなのか?」


僕が聞くと


『ただ、めんどくさかっただけだ』


とサイアスは言った。


やな奴……だけど、もしかしてサイアス。

お前、照れてないか?

いや、まさかな……。


「ところでさ。額につけたものって、どんなもの?」


僕が聞くと


『なんでですか?』


レオンが聞いてきた。


「だって、変なのだったらかっこ悪いじゃないか」


僕が言うとサイアスが言った。


『もともと変な格好なんだ。大差ない』


変な格好って、制服のことか?

確かにこんな黒いガクラン着た奴なんて、ここでは見てないけどさ。

でも、それとこれとは別だろ?

そう思っていたら、レオンが


『服はともかく、額は変じゃありません。というか、見えませんよ。もう付いている感覚も無いでしょう? あなたの中に入り込んでしまったから』


と言った。服はやっぱり変なのか……? だけど、中に入り込むって……。それ……?


「……それって、大丈夫なの? 体ん中入っちゃって」


僕が言うと、


『大丈夫ですよ。それは、サイアスの魔力の塊みたいなものですから』


とさらっとレオンに言われたけど……魔力の塊って……。本当に大丈夫なんだろうな?


とりあえず、言語の心配が無くなった僕は着実に買い物をこなしていった。




「今度はちゃんと、間違いなく食べられる果物を買った。水も買った。毛布も携帯用を買ったし……。レオンを入れるベルトもちょうどいい茶色い皮のベルトを見つけて買った。あとは……」


僕は買い忘れが無いかをチェックしていて気が付いた。

果物を食べるのはいいけど、ナイフとかあった方が便利だ。きっと……。

サバイバルナイフとかっていうじゃないか!!

他のことにも役に立つかもしれないし……。まだ、お金はあるし……。

ちょっと見てみるか。


僕は武器をこれ見よがしに並べている、一つの屋台に近づいた。


「あら、お兄さん。どうです? 今日は、いい品物が揃っていますよ!」


屋台の中にいたおばさんが声をかけてきた。

だが、一瞬にして僕の格好を見て目が点になった。

今日で八回目の現象だ。店の人と会うたびに、この現象が起こっている。

何回かはわけがわからず、そのまま逃げ出したくらいだ。

そして、そのまま僕の腰にあるレオンに目を向ける。今度は目玉が飛び出しそうに驚いている。


これも今日八回目だ。


「ずいぶんと綺麗な長剣ですねぇ。どこで手に入れたんです?」


今度は目を輝かせながら聞いてくる。お宝発見!! というところか?

僕は曖昧に微笑みながら


「まぁ、いろいろと……」


と答えた。

あまり詮索される前に早くナイフを選ぼう。

僕は品物を見るが、右側が魔道具。左側が普通の道具とわけてあるようだ。

真ん中に木の板で仕切りがしてあり、右と左それぞれの札にそう記してある。


わかりやすっ!!


しかも、値段もわかりやすかった。魔道具は桁違いに高い。

ってことは、レオンもサイアスも本当にお宝並みの価値がありそうだ。

僕はただのナイフが欲しかったので、普通の道具を見ていた。

いろんなナイフがある。

どうしようか悩んだそのとき、一つのナイフが目に留まった。


そのナイフは全体が黒い色をしていた。白いインクで星空を思わせるような模様が書いてある。刃を覆っていた黒い鞘をとって刃を見てみると、よく切れそうだ。


「これにするよ」


僕は迷わず言って、そのナイフを購入した。



―――――――――――――――――――――――――――――――

章平が立ち去った後、その店のおばさんがつぶやいた。


「あのナイフ。たしか、魔導師が置いていった借金の担保だったわねぇ。まぁこの前、鑑定士に見てもらったら魔道具じゃないっていうし、いっか。それにしても、あの子。変な服装だったし、すごい剣を持ってたわねぇ。どっかの貴族の息子さんかしら。


でも、あんなにかわいい顔だったら一度見たら忘れないけどねぇ」


――――――――――――――――――――――――――――――――


そんなことを言われているとは露知らず、僕はサイアスとレオンと共に街(といえるかどうかは疑問だったけど・・・)を離れて、また森に入った。街は森に挟まれていたらしい。

つまり、僕たちは森の中にある街を通り抜けたわけだ。

あんな森の中よく移動できるなぁ……とつぶやいたら、レオンが教えてくれた。

街を動かすときは木の精霊に頼んで木を退どけているのだという。

なんでも、日雇い労働の場合もあるし、街によれば定期契約をしている場合もあるらしい。この世界には精霊もいるのか……。


……って精霊も雇用されるのかよっ!! 僕は心の中でつっこんだ。


労働基準法なんてあるのかな?

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