彼女と僕

バブみ道日丿宮組

お題:鳥の四肢切断 制限時間:15分

彼女と僕

 食事をするということは何かを奪うということだ。

「……んん」

「顔そらしちゃダメ」

 今まさに僕は違った肉を食わせられそうで困ってた。

「こういうのは恥ずかしがるから照れるんだよ。ほら、あーん」

 彼女は鶏のから揚げを箸でこちらに向けてくる。

 それは恋人がやるいわゆる『あーん』的なあれだ。

「自分の分があるのにわざわざしなくてもいいんじゃない?」

 自分たちの世界に入ってる屋上という場所であってもひと目が気になるのは当然のこと。

「ダーメ。これしてくれなきゃ今度弱いところ攻めちゃうからね?」

「えっと、それは卑怯じゃないかな」

 いろんな弱みを知られた今となっては全裸にされてるようなものだ。いや……四肢を切断された唐揚げのようなものかもしれない。

「じゃぁ食べてくれる?」

「わかった。わかったから落ち着いて?」

 彼女の笑顔は怖い。

 学園のアイドルという二つ名はどこにいったのかというほどに、豹変してる。

 彼氏彼女の仲というのに攻めっぷりが強い。

 まぁ……僕が主導権を握ることはたぶん他の女性出会ってもなかったと思うけど……。

「はい、あーん」

 笑顔に屈しるわけにはいかなかったというのに僕は、

「あ、あーん」

 その行為を受け入れるしかなかった。

「よくできました」

 僕の頭を撫でる彼女はまるでお母さんみたいだった。僕って母性本能をくすぐる存在なのか? いや……まさかね?

「ほんとだったら全部食べさせてあげたいんだよね」

 うっとりした目線を向けられても困る。

「いや……僕は僕の分のお弁当もらったしね? それで十分なんだよ? ほら、あまり食べちゃうと午後からの授業に差し支えるかもしれないし?」

 なにかいい逃げ道はないかと思考して……失敗する。

 僕よりテストの点数が高い彼女に計算で勝てるわけがないのだ。

「そうだね。授業中に眠ちゃったら困るものね。あれは私だけが見ていいものであって、他の娘は見ちゃダメ」

「あはは……」

 握りこぶしを作る彼女はやはり怖い。

 今は恋人という同盟に近い関係だからいいものの、敵にまわったら僕はひとたまりもないだろう。

「明日はもっと美味しいの作るからね」

「あまり無理しないでね」

 これは本音だった。

 学校でいつも優等生として褒められる彼女が僕という平坦な存在によって、下に見られるのはいけない。彼氏として、彼女にはつねにトップであってほしい。

 追いかけたいって気持ちはあるのだけど、僕にはやっぱり自分の殻を超えることができない。ただ彼女に甘えるばかりで……他になにもない。

「あなたもあまり深く考えないでね。私はありのままのあなたが好きなんだから」

「う、うん、わかってる」

 お昼休みの残りの時間は彼女と世間話をして過ごした。

 そこで彼氏がいるのに告白されたっていう愚痴を聞いて、僕はやっぱりふさわしいのかと自問するのであった。

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彼女と僕 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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