Ain't Nobody Know

ゆき

第1話

優里 side



うーん……今日もキツイなぁ。毎朝のことながら、通勤ラッシュの電車で揉まれる。立っていると

「痛っ。」

後ろから押されて、

「あ、すみません。」

前に立っていた男性に寄りかかる形になってしまった。

「あ、いえ。毎朝こんなだと参りますよねぇ。」

「ええ、ホントに。参っちゃいますよね。これから仕事なのに……」

そのまま数駅乗っていると

「あ、僕……この駅なんで。お先に失礼しますね。」

そう言って、その男性は降りて行った。私より2駅前か……この辺にお勤めなのかしら?出勤すると

「優里、おはよう。」

と同僚の千咲が声をかけてきた。

「千咲、おはよう。」

「ふふふっ、今日もやられたみたいね。ボロボロになってる。髪はボサボサだし、メイクも取れてるし……あ、口紅も取れてる。」

「え?あー、今日ね……電車で後ろから押されちゃってさ、前に居た男性に寄りかかる形になっちゃったの。ウチより2つ前の駅で降りていった目線が同じくらいの眼鏡の男性。まぁ、そうは言っても……私はヒール履いてたんだけどね(笑)」

「あ……ふーん。まぁ、優里みたいな可愛い子に寄りかかられて、その男性も嬉しかったんじゃない?」

「え?そうかなぁ?あ、始業前にお手洗いでメイク直してくるね。髪も直してくる!」

「うん、行っておいで。」

千紘に送り出されて、お手洗いに向かう。私たちは出版社に勤めている。基本的に内勤だけど、たまーに外出することもあって。"OL"といえば聞こえは良いんだけどね(笑)



蓮 side



「四宮さん、おはようございます。ふっ、今日も揉まれたみたいですね。ココ、口紅付いてますよ。」

後輩の悠真がスーツの襟元を指差して教えてくれた。

「わっ、教えてくれてありがとう。なんかさー、前に立ってた女性が後ろから押されたみたいで寄りかかってきたんだよな。」

「ふっ、そうなんすね。っで?その女性は可愛かったんですか?」

「や、見る余裕なかった。でも、良い匂いはしたかな?」 

「ふっ、良かったっすね。今回のが良い縁になれば良いですけどね(笑)」

「ふっ、悠真……余裕だな。やっぱ同じビルに彼女居るヤツは違うな。」

「まぁ、そうなんですよね(笑) あ……千紘の友だち、紹介しましょうか?」

「や、良いかな?ウチの妹もさ、俺に自分の友だち紹介しようとしてて……ウザイんだよなぁ。」

そう言って、苦笑いする。

「四宮さんの妹さん……あ、あの別々にひとり暮らししてる妹さん?」

「ああ、その妹。何かにつけて、ウチに来るんだよなぁ。」

「まぁ、妹さんなりに四宮さんのこと、心配なんじゃないっすか?」

「ふっ、たぶんな。あ、始業前にコレ落として来るわ。取れるかなぁ?」

「完全には取れないかもしれないっすけど、薄くなればいっすね。」

俺はIT系の会社に勤めている。仕事柄男性ばかり。男子校みたいな感じだ。悠真の彼女の千紘ちゃんは同じビルに入っている化粧品会社に勤めている。仕事柄女性が多いらしいが、同期は珍しく男性みたいで。悠真はそれだけを心配している。まぁ、ほぼ女性の中に入れる男なんて安全な気はしてるんだけどな。



優里 side



退勤の時間になり、帰り仕度をしていると

「優里、一緒に帰ろう。」

同僚の千咲が声をかけてきた。

「うん……いいけど、でも……千咲、別の線じゃなかったっけ?駅まで、ってこと?」

「ふふふっ、ううん。ウチの兄がね、優里のおウチの近くに住んでるんだ。寄ってこうと思って。確か……優里より2つ先だったかな?よく行ってるから、兄の家の合鍵も持ってるよ。」

そう言われたので、千咲と一緒に駅へ向かうことにした。

「ふふふっ、そうなのね。お兄さん、いくつ上だったっけ?」

「えっとねー、私たちより5個上。もう40近いのに、まだ独身で困っちゃう。」

千咲はそう言って、頰を膨らませる。

「ふふふっ、まぁ……付き合ってる人が居ない私たちが言うことじゃないって。」

「まぁ、そうなんだけどね……兄が先に行かないと、私も結婚出来ないんだよね、体裁的に。まぁ、相手は居ないんだけどね(笑)」

「ふふふっ、可愛いのになかなか彼氏が出来ない理由がわかったよ。お兄さんが理想なんでしょ?」

「うっ、まぁ……お兄ちゃんのことは好きだけどね。ってか、優里も可愛いのに彼氏居ないじゃん。……ウチの兄とかどう?」

そう千咲に言われた。

「え?千咲のお兄さん?」

「そう。まぁ……私が友だち紹介しようとしても断るんだけどね。『自分の年齢考えろよ!』って思うよ。」

「そうは言ってもさ、私たちももう30半ばなのにまだ独身だよ?」

「うん、そうなんだけどね(笑) 兄の職場はさ、男性が多いみたいで出会いがないらしいんだよね。」

「そうなの?まぁ、そうゆう会社ならあるんじゃないの?合コン。」

「あー、ウチの兄はね、そうゆうの苦手なの。そうゆうのに来る女性も苦手みたいで。……あ、確かお兄ちゃんと仲の良い後輩は同じビルの他の会社の人とお付き合いしてるって言ってたかなぁ?」

「ふふふっ、そうゆう出会いもあるのね。」

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