5

 と、言うわけで、トラの子の核兵器をすべて失ってしまった某国は、宣戦布告からわずか三日にして早くも停戦交渉を要求する羽目になった。事実上の白旗だ。そして、ほぼ時を同じくして、日本政府はニュートリノ砲の存在を全世界に公表した。地球上のすべての核兵器を完全に無力化することが可能になる。この事実が世界に与えた衝撃はとてつもなく大きかった。


 おそらく最大の核保有国である米国が黙っていないのではないか、と考えられたが、意外なことに米国はニュートリノ砲に対して好意的だった。


 "どうせなら米国以外の核を全部消滅させちまおうぜ。おっと、まさか同盟国にνキャノンを向けることは……ねえだろうな?"


 米国の声明を要約すると、まあ、こんな感じだ。もちろん、これで米国の核兵器がいつまでも安泰かと言うと、決してそんなことは無い。νキャノンは原理的にどの国でも作ることができる。米国に敵対する国が作ったνキャノンによって、米国が保有する核弾頭が全て無力化する、ということも十分考えられる。


 だが、たとえそうなったとしても、米国は通常兵器の戦力も世界随一なのだ。そもそも今まで米国が行ってきた軍事行動で、核兵器が使われたのは広島と長崎以外にないのである。なので、仮に核が全て失われたとしても、それが米国に対して大きなダメージになることもなさそうだった。それよりも、米国はνキャノンの「もう一つの用途」に、非常に関心を寄せていた。


 泡を食ったのは、核武装を対外的な交渉カードにしている一部の「ならず者国家」だった。それも当然だ。カードが一瞬にして消滅してしまったのだから。というわけで、某国との紛争に光の速さでケリをつけた日本は、今度はどうやらそういう国から狙われることになりそうだった。


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る