優しい君と、つれない僕
shacci
第1話 夏の前の静けさ
それは____たったひと夏の____かけがえのない時間___
だったはずなのに、僕はずっと思い出せないでいる。
なにか忘れてはいけないような、大切な時間が思い出せない。
でもその時間は確かに存在していたはず。
なのに……そんな感覚だ。
1年前___
「なあ翔太、お前高校卒業したらどうすんの。」
滝の様に流れる雨が降る中、俺らはそこそこ大きい屋根のあるバス停のベンチで、二人帰りのバスを待っていた。
バス停のベンチは、5人座れるくらいだが利用する人がほとんどいないため、いつも俺らで貸し切り状態である。
「んーそうだなあ、とりあえずやりたいことあるし専門学校にでも通うかな。」
俺の親友である翔太は、聞かれ飽きたような口調でそう言った。
暇すぎる時間にとりあえず話す話題は決まってこれだ。なんせ俺たちは高校最後の夏を迎えようとしているわけである。
さらに同じ帰宅部である上に偶然家の方向も近くてつい意気投合してしまった。
「イブはどうするって言ってたっけ。」
同じ会話をしてるはずが、一向に俺が卒業後どうするかを覚えてくれないのは新手のいじめだろうか。
ちなみにイブは俺の苗字の
「まあなんかカチッとした仕事はじゃなければなんでもいいかなーって感じ。」
新手のいじめを受けるのはきっとこのパッとしない回答が原因だろう。
「なるほどな~」
翔太はちゃんと聞いているような雰囲気を出しながらも、何も考えてないであろう返事でそう言う。
おそらくこのいじめはまだまだ続くのであろう。
とある日の帰り道
連日続いた雨も静かになってきた頃、学校帰りの俺たちはバス停のベンチでいつも通り休もうとしていた。
しかしそこには、この周辺では見かけない綺麗な女性がいつものベンチに座っていた。そして見たことのない制服。東京の学生だろうか。俺たちは様子を見ながら恐る恐るベンチの端っこに座った。
「あ、ごめんなさい、ここのベンチ風が気持ちよくてつい本に没頭しちゃいました。もっと横に詰めますね。」
彼女は
たしかに端っこに座っている俺は半ケツが浮いていたので、詰めてもらえると俺の半ケツが喜ぶ。
そんなことより、こんな絶世の美女がなぜこんな所へいるのだろうか。
「あの、どこから来られた方ですか。」
緊張した俺は小さい声で聞いた。
「私、東京から越してきたんです。今年の夏から
少し照れながら彼女はそう言った。
彼女が高校生であることに驚きながらも、
「青原高校!?俺たちと一緒じゃないですか!」
「名前は何ていうんですか?」
「
可愛い。
これが、夏希さんとの最初の出会いであった。
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