エジプトから来たカー

木苺

第1話 俺はミイラだ

だれだ 俺の眠りを覚ますのは?


ここはどこだ?


俺のカー(魂)はオシリスの審判を受けなかったのか?



・・

俺の傍らには 男がいた。


おれの方を見ながら 俺の顔を描いている


ということは 俺のカーは 俺の肉体(ミイラ)の中に逆戻りしたのか!


勘弁してくれよ


・・

俺は 大河と砂漠の間に広がる街で生まれた。

大河は1年に一度氾濫する。

神官たちは その洪水の始まりと終わりを正確に予測するのが仕事だ。


氾濫が始まる前には 俺達は高台に避難する。

別の街に行商に出かける者もいる


氾濫は 肥やしに富んだ豊かな土を運んできてくれる

年に一度の氾濫が 大地を潤し 畑の素となる土を運んできてくれる


氾濫が終わると俺達測量士の出番だ。


なにしろ 川の水が土地の境界線を消してしまうから。


川の水にも流れることのない目印を使って測量しなおし 土地の境界線を引き直さなければいけない。


土地の境界線が確定したら 農民たちは 種をまき 作物を育て 俺達の腹を満たしてくれる。


そして1年がたち また川は氾濫する


・・・

測量士の仕事は 氾濫後の境界線の引き直しだけではない。


建物を建てたり ピラミッドを作る時にも まず最初に求められるのは俺達測量士だ。


俺達に求められるのは 公正であること・正確であること・正直であることだ。


俺は わいろも受け取らず いい加減な測量もせず

まじめに 実直に生きてきたつもりだ。


なのになぜ 俺のカーは俺のミイラの中で

俺の肖像画が描かれているのを 眺めている羽目になったのだ?

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