本当の君を知らぬまま

白雪凛

本当の君を知らぬまま

僕はどうしてこんなところにいるんだっけ?

路上で弾き語りをしていたのだろうか、手にはギターが握られていた。

辺りに人はまばらだ。

僕は立ち上がり、家に帰ろうかとギターを片づけ始めた。


「お兄さーん」

一人の少女がこちらに向かって走ってきた。

僕は辺りをキョロキョロしてみるが、この辺にいるのは僕しかいない。

少女は僕の目の前に来ると「もう私のこと忘れちゃったの?」と上目遣いで聞いてきた。

「あ、、、、えっと、、、、」

僕はしどろもどろになる。

「お兄さん人に興味なさそうだもんね」

少女は僕の手を掴むと何処かへと引っ張っていった。

「ちょっと早く歩いて」

「どこに行くの」

「いいから」

少女は何も説明せずにどんどん歩いていく。


先程いた路上とは明るさが段違いな広場に来ていた。

女の子は広場の真ん中まで行くと、「みなさーん、今から10分だけの限定弾き語りライブを始めますよー」と大きな声で言った。

人がなんだなんだと集まってきた。

少女は僕の方を見ると「それじゃあお兄さん頑張って」と言って肩をポンと叩かれた。

僕は状況を理解できていないまま、弾き語りを始めることになった。


急遽始めた弾き語りなのに終わってみると人で溢れかえっていた。

「次の準備あるので道開けてくださーい」

先程の少女の声がどこからともなく聞こえる。

少女は人の波をかき分けて僕のところに辿り着くと「楽しかった?」と聞いてきた。

「えっ、、、あぁ、、、」

「それじゃあ次の準備あるので移動しましょー」

そういうと彼女はまた迷いなく歩いていく。

僕は置いていかれないように彼女の後をついていく事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る