Q オール

エリー.ファー

Q オール

 私は、ここに住んでいる。

 この星に住んでいる。

 花が綺麗だ。とにかく。

 他の星の人が摘みに来る。

 でも、誰も住もうとはしない。

 私だけが住んでいる。

 別に、何もおかしなことではない。

 この星の魅力は綺麗な花だけで他にはないのだ。悲しいことに、私もそう思っている。

 星には私しかいない。

 物心ついたときから一人だった。寂しいという感覚はない。ここで花を見ているのはかなり楽しいのだ。新種も頻繁に生まれるため発見もとても多い。毎日は充実している。

 星と星の間の距離を測るには、カンゴウという花の成分が必要となる。このカンゴウがたくさん咲いているのがこの星となる。ある星の研究者が大勢やってきて、大量に持って行ったがカンゼンが絶えることはなかった。かならずどこかしらで生まれて、勝手に増える。しかも、他の花に影響を与えることもない。

 それぞれが勝手気ままに咲いていて、何の邪魔にもなっていない。植物の中にあるピラミッドが崩れる気配がないのだ。

 そもそも、自然なんてそんなものなのかもしれない。

 人間如きが、手を加えたところで変化するものではないのだろう。

 でも。

 どこかの星で環境破壊が進んで、星自体が死んでしまったという話を聞くこともある。

 星に力がないこという事実。

 星の力を過信して搾取し続けた人間がいるという事実。

 この二つが揃った時に最悪の事態は発生する。

 しかしだ。

 この二つが揃わなければ、何も起きないのだ。

 星に力があるかどうか、こんなものは分からない。でも、私は人間であるからして過信しないようにするということは、無理なくできる行為だと思っている。行為というよりかは、思考と言えるのかもしれない。そのように振舞おうとする心構えというか、そんな感じだろうか。

 私は、この星が好きだ。

 でも。

 過信はしない。

 そうやって学んでいる。

 この星は地球という。

 随分前に人類が絶滅して放置され。

 もの好きが住んで。

 私が生まれて。

 私の両親はどこかに行ってしまって、私だけが一人。

 地球という名前は中々に洒落が効いていると思う。地というのは地面のことを指していて、それが球であるというから地球。でも、冷静に考えればほぼほぼ海が占めているのだから、海球でもいいはずだ。だが、この地球という名前をつけたのは、人間なのである。

 人間は海では息ができずに死んでしまうが、地上ではそれなりに生きていける。つまり、地球目線で名前を付けたのではなく、自分たちの目線で付けたのだ。本来、星の名前というのはその特性というのをそこに組み込むものである。しかし、人間の所有物であるということを示すために、特性ではなく視点で名付けている。

 と、勝手に推測している。

 詳しいことは分からないので、批判されたら謝るしかないのだけれど。

 でも、凄く人間らしいと思う。

 そして、そう思いあがるから、簡単に絶滅したりするのだ。

「あの、すみません」

 私は顔をあげる。

 男の人がいた。

「このあたりにハブラキという花はありますか」

「ハブラキならあの丘の向こうですよ」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

「いい場所ですね。星の名前は、確か地球と聞きました」

「住んでみますか」

「え」

「ここに住んでみたいですか」

 私は微笑む。

 男の人は首を傾げる。

「ううん、そうですね。僕は、たまに来るくらいで十分ですね。ほら、本来自然というのは人間にとって贅沢品ですから」

「人間も自然の一部だと思いますけど」

「それは、事実というだけですよ。事実なだけで意味がない」

 私は深く息を吸い込む。

 また人間が絶滅したとして。

 なんとなく復活して、なんとなくどこかで元気にやっていくのだろうと思えた。

「美しいですか」

「もちろんです。本当にこの星の花は美しい」

「私のことを聞いたんですが」

「あっ、すみません」

「ううん、いいの。もしあなたが私のことを答えたら、花のことを聞いたのって言うつもりだったから」

 男の人が苦笑して、それから微笑む。

 私も微笑んだ。

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