終末が訪れました
いみてさん偽
第1話 世は終末です
「あー、これもダメじゃのー」
空が白み始め、大地が朝日に照らされて来た頃。
小さな体躯で大きなボストンバックをへこませている、真っ白な和装の着物を着こなした少女が、赤黒く染まった大地からほんの少し光沢をもつ何かをつまみ出し、眠そうな眼を擦りながらそうつぶやいた。
「少々時も経ったから、少しくらいは無事なものがあるのではないかとちょっとくらいは期待していたんじゃがの?」
少女の口調は、その幼い容姿とあどけない声色には見合わず、まるで幾年という長い時を生きてきた年寄りのようであった。
「腹八分とは誰が言ったのだったか……これでは八分どころか一分すら満たされん」
彼女の呟きの内容から察するに、どうやら食料を探しているようだ。しかし、見渡す限りこの一帯は、まるで地から染み出た血が、時間を経て黒く固まったかのような黒い荒野がただ広がっているのみで、腹を満たせそうなものどころか、生存に必要な栄養を摂取することさえも難しそうな有様だった。
くぅ、と小さな音が聞こえた。出所は少女の腹だ。
「うぅ……何もないのじゃー……」
腹の虫が鳴いた音は、けれども少女の耳以外の誰にも届かず、静寂な荒野に虚しく響いた。
その小さな音がかすかに木霊して再び耳に返ってくるまでのわずかな時が経ち。
「あーーー!!わしは肉汁溢れる焼き肉が食べたいんじゃぁーー!!!お腹いっぱいの、お、に、くぅーーーー!!!」
いきなり容姿相応の幼さで己の欲望を叫び始めた。仮に近くに誰かいたとしたら、その突然の叫びはその人を驚かせてしまったかもしれない。そんな人がいればどのように反応するだろうか。急な大声に驚いた後、とりあえず隠れるか、もしくはその叫びの内容をなんとか聞き取り、呆れたように少女のことを見るか、それとも飢えた少女に憐みの視線を向けるか。
しかし、現実はそのどれでもなく、聞いた人など誰一人としておらず、ゆえに反応を示す存在も何一つなく、少女の切実な願いが大空に呑まれただけであった。
ただ、その声を呑み込んだのは本来あるべき大空ではなかった。
少女が叫びと同時に仰いだ天に広がるは、大気中の微粒子によって光が撹乱され、空全体を染めあげて目に飛び込んでくる澄んだ蒼穹などではなく、それよりも低い位置、ちょうど雲がかかるギリギリくらいの高さに、どこまでも広がるのではないかと錯覚するような、それほどまでに大きな陸塊が宙に浮いていた。とは言ってもその大地はすべてが陸続きになっているわけでもなく、一昔前の地図に載っていた赤道上の島国のように、いくつかの島が連なっているものであり、確かに薄暗くはあるものの、太陽の光が完全にこの地上に届かないわけでもない。それでも一つ一つの島はちっぽけな人間からすると大きなもので、空を覆い隠すには十分な面積を有していた。
「空、か……。あの空中大陸での暮らしは、楽しいかの?」
そんな意味のない呟きをふと漏らし。しかしそんな夢など抱くことすら無駄と気づき、すぐに前を向くと、食料を求めてひたすらに少女はさすらい始めるのだった。
意味もなく、ただ、生きるために。
:::::
ある日、世界は終末を迎えた。それは確かに宇宙の規模で見てみれば、ちっぽけな恒星の周囲の軌道を公転する、さらに小さな惑星のある一時その表面を闊歩する生き物の中でもさらにほんの短い期間を、それでも己こそが支配者と信じて疑わない愚かなとある種族の視点からのものではあったが、それでも世界は確かに終末を迎えたのだ。
その終末は、突如現れた自然界の理から外れた尋常ならざる力を持つ、されどもたった6体の化け物によってもたらされた。
その6体の化け物は、“終焉の徒”と呼ばれる手下を無限に生み出し、そして自身も周囲の環境の何から何までを蹂躙し、変貌させた。彼のモノが滅ぼしたのは人類だけではなく、そこに存在した生きとし生けるもの全ての命を奪っていった。彼らが通った後には生命の息吹など微塵も残さず、それは大型の生物だけではなく、微生物も含めたあらゆる生物が息絶え、荒涼とした大地が広がるのみとなった。
出現からあっという間に世界を創り変えた彼らに、まともな文明など破壊されつくされてもいまだ細々と生き残っていた人類はその存在に怯え、隠れ潜み、それでもほぼ確定された彼らの襲来とともに訪れる死を待つだけのはずだった。
しかし。
拾う神あれば捨てる神あり。そんな言葉を編み出したのは誰であったか。
神は生命を完全に見捨てたわけではなかった。
その光景を見たものは、どんな無神論者であったとしても、神の存在を信じたという。それほどまでに、その時起こったことはまさに“奇跡”と呼ぶほかなかった。
生命を滅ぼす6体の化け物が現れた。けれども、それと同時に、一人の“勇者”が、人類の中に現れた。“勇者”もまた、化け物どもと同様に人ならざる、いや、世の理から外れた強大な力を操った。されども、“勇者”はそれを、人類を守るために行使した。襲い来る化け物と、その手下どもを薙ぎ払い、一掃し、人々を守護した。守られた人類は歓喜した。これで我々は救われる、と。しかし、たった一人の力では、それがいかに強大なものであろうと限界がすぐに訪れた。その証拠に、“勇者”が倒したものは直に襲って来る者たちだけだった。“勇者”にとって、それが精一杯の守護だったのだ。
だから、“勇者”は多くの命を守ると同時に、それを選別することにした。無作為に生存可能な土地を選び、そこに人々を集い、そして、大地を宙に浮かべた。化け物から守るため、その力が届かない所へ避難させた。
かくして、人類は居住を空に移すことで何とか生き延びた。化け物どもからは逃れて、安全な空中大陸へ。そこで新たに順応し、衰退した文明とはまた違った方向へ文明を発展させることになったのだ。
しかし、もちろん全ての人類を守ることはできなかった。偶然そこにいた人、情報を聞いてそこに集まった人、そういった人を守ることはできた。
だが、それだけ。
取り残された人々は未だ地上で、いずれ来たる滅びを怯え、恐れ、それでも何とか生を繋いでいくこととなった。
彼らはまだ、滅びてはいない。しかし、いずれ確実に滅びる。彼らはすでに“息絶えている”のだ。ゆえに空に彼らの情報はない。ただ、滅びたという事実が横たわっているだけ。
それでも、そこには誰かがいるのだ。
最後に。
世界を滅ぼした6体の化け物どもを、そしてそのそれぞれのことを、生き延びた人類は畏怖を込めてこう呼んだ。
≪終焉を告げるモノ≫
序列1位──<
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