11.暴露

 相談を終えると、リアは両親に話すべくルーフと共に王城へと帰った。ルーフが屋敷に帰ってきたところで、再び話を始めた。



「それで、なんだ?話って。さっきの事か?」



 最初に話を切り出したのはブローヴィルだった。



「さっき、空間の王位精霊の加護持ちは違う世界から来た人間だけだという話をしたよね」


「あぁ」


「……実は、そうなんです」



 なんとなくの予想はついていたのか、やはり、といった感じで溜息をこぼす。



「ふむ……それで?」


「向こうの世界で車に轢かれてこの世界に生まれ変わったんだ。それで、もう1人いるんだ……異世界人」


「んな!」



 これには驚いたようで一様に唖然とした表情だ。1人いるだけでも珍しいのに2人も身近に居るとなるとそうなるのも理解出来る。



「い、一体誰が……」


「リーリアです」


「そうだったのか!!……もしかして、儀式の後のあれは!」



 儀式によって記憶の枷が外れたリアはしばらく部屋に閉じこもっていた。恐らく、その時の事を思い出したのだろう。



「じゃあレオも儀式で記憶が戻ったってことかしら?」


「いや、多分一週間前に聖女の子の魔法を受けたからじゃないかな!」



 ルーフが閃いた!とでも言いたげにそう言った。



「【精霊の儀式】も聖女の治癒魔法もどっちも精霊の力だからね。2人の前世の記憶が蘇ったきっかけで共通するのはその2つだけだったし」


「うん、まぁ過程についてはよく分からないけど……僕の記憶が戻ったのは昨日目が覚めてからだったよ」


「なるほどな……リアちゃんをさっき呼んだのはその事を打ち明けるかどうかを相談していたわけか」


「そうだよ、今頃リアもおじさんに打ち明けている頃じゃないかな」


「殿下はどんな反応するのかしらね。ふふっ」



 微笑しながらラナリアは言うが、ブローヴィルの方は苦笑いだ。



「さっきリアも死んで転生したって言っていたけど、リアとレオは死ぬ前はどういう関係だったんだい?兄妹とか?」


「あ、いえ、恋人です」



 それを聞いて三人とも真っ青になった。言った本人であるレオも失言だったと悟った。


 ルーリエンは異常な程我が子を溺愛している。その娘の恋人だなんて聞きつけたら……と思うと鳥肌が立つ。



「兄さん大丈夫だろうか、今頃卒倒しているんじゃ……」


「急に心配になってきたわ」


「ま、まぁそれはまた後にしよ。あはは……」


「あ、もう一つ伝えなきゃならない事が……」


「「「まだあるの!?」」」


「あ、さっきみたいなことじゃなくて!儀式の時にちょっと……」



 両親はレオが儀式の際に倒れたのは魔素マナの濃い空間に居たからだと思っている。それもあるが、実際は2度目の霧の際に現れた老人の放った一言が原因だ。



「儀式の際、魔紋オドリングを刻む霧の後にもう一度霧が出たんです」


「なに?」



 急に深刻な表情になるルーフ。真紅の瞳には殺気が籠り、まるでレオが先日襲われた時のようだった。



「その霧が晴れると、目の前に髭をたっぷり生やした老人がいて僕にこう言ったんです。


『家に帰りたければ北の果てで待つ』


 リアとも相談したんだけど……多分僕らが前世で暮らしていた場所なんじゃないかって」



 そう話すとルーフが放つ殺気は消え、一度落ち着くために深呼吸をした。その殺気は他の二人も感じていたようで、少し顔が緩んだ。



「そいつは自分の事をなんて言ってた?」



 ルーフがそう静かに尋ねる。



「神の伝言番だと」


「そうか……」


「ちょ、ちょっといいか?」



 少し気まずそうにブローヴィルが会話に入る。



「どうしたの?」


「北の果てと言ったか、この辺りじゃ北の果てといえば一つしかない。魔王城だ。その上で聞くが……レオは前世の家に帰りたいのか?」



 その声には少し寂しさも籠っているように思えた。


 だが、もう既に決めている。



「僕は帰りたい」


「それはリアちゃんも一緒なのかしら?」


「うん、そうだよ」


「……そっか、分かった。だが、大変だぞ。もしかしたら命を落とすかもしれない。それでもお前達は帰りたいのか?」


「二人でそれを理解した上で決めたんだよ」



 彼の決意は固い。それを感じ取った三人は一度考えをまとめるために別の部屋で話し合うことにした。


 一方、王城では―――


//////////////////


 ガイン城最上階。リーリアの私室。部屋の作り自体はレオナールの部屋と非常に似ており、年頃の女子らしくピンクが多めな部屋色だ。



「リーリアが……レオナールの……こいび、とぉ……」



 白目を向いてその場に崩れ落ちた男。その傍らで呆れながらも驚いている女性。同じく、傍らで何が起きているのか理解できていない様子の少年。


 男の名はルーリエン・フェル・ハイル・リルフィスト。王位継承権第一位の王太子だ。髪は勿論青く、肩当たりまで伸びた髪を後ろで一つに結っている。瞳はブローヴィルと同じく金色で、スラッとしたモデル体型の美丈夫だ。

 白を基調とした生地に青いラインの入った軍服には多くの勲章が付いており、軍人としての優秀さが伺える。


 その隣の女性は彼の妻、ルミーニャ・フェル・ハイル・リルフィスト。背格好や体型、髪型、顔の雰囲気はラナリアとそっくりの美女で、瞳はオレンジサファイアを埋め込んだような、澄み切った橙色だ。髪色は少し赤みの混じった茶色である。

 ラナリアが着ているようなゆったりとしたドレスではなく、ボディラインの分かりやすいスラッとした淡い水色の生地のドレスを着ている。


 そして、彼女の隣にいたのはリーリアの弟、フェイトス・フェル・ハイル・リルフィスト。髪色は言うまでもなく、バックとサイドを刈り上げたおぼっちゃんヘアーの可愛らしい少年だ。

 黒い生地に黄色のラインが細かく入った服でドレスアップしており、おどおどとした態度とは打って変わってピリッとした印象だ。


 彼らの向かいにはベッドに座り焦っているリーリアがいる。



「ちょ、父様!!大丈夫ですか!」


「いいのよ、それより情報量が多すぎて頭が追い付いていないから、もう一度、ゆっくり、簡潔に言って」


「え、あ、はい。えっと、まずレオと私は異世界からの転生者なの」


「それだけでも十分驚きなんだけど……それで?」



 急なカミングアウトに頭痛を覚える。だが、ちゃんと聞いてあげなければ、と頭を振ってリーリアの目をぐっと見つめる。



「レオが今日、儀式で空間の王位精霊の加護を授かったの」


「ラナのとこの……で?」


「その時に、霧が二回出てきて神の伝言番を名乗るお爺さんが出てきて『家に帰りたければ北の果てで待つ』って言ったんだって」


「そう……」



 ルミーニャは暫く考え込むと、そばで気絶しているルーリエンの頬を思い切りひっぱたく。ハッと目が覚めた彼は呻き声をあげながら椅子に座る。



「すまんすまん」


「しっかりしてくださいな……もう、それでリアはどうしたいって思ってるの?」


「何の事?」



 とぼけた夫に再度ビンタをし、レオが聞いた言伝の話をする。ルーリエンもルミーニャと同じく少し考え込むとしっかりリアの目を見る。



「そうだな、どうしたいんだ?」


「レオとも色々話したんだけどね、生まれ変わる前の世界に戻れるのなら私は何が何でも戻りたい!」


「北の果てが何を指すか分かっているのか?」


「わかってる」



 リアの意思も、レオと同じく固い。目には気迫が籠り、今までにはないその雰囲気に、リアが儀式以前のような泣き虫でひ弱な女の子ではなく、しっかりと志を持った立派な女の子が彼女の中にいることを感じとり、父はその姿に感激と悲しみの涙をこぼし、母は笑顔でリアを優しく抱き締める。


 弟は相変わらず状況が呑み込めていないのか泣き続ける父にあたふたしている。



「あなたがそう決めたんなら、母さんは応援するしかないね」


「かあ様……」



 思わず涙が零れるリア。



「それで、どうするんだ?行くっていっても許可証がないとそもそも奴らの領域に立ち入ることすら難しいぞ」


「許可証?」


「そうか、リアはまだ知らなかったか。すまない」


「なら、ブロのとこのぼっちゃんも呼んで二人に説明してみては?その方が手っ取り早いんじゃない?」



 リアも何の事か分からず混乱する。何やらただ強いだけではいけないらしい。


 ルーリエンはリアの机の上に置いてあるベルを鳴らし、使用人を呼んだ。入ってきたメイドにルーリエンが言う。



「アリスレイン大公家邸に言って一家全員呼んできてくれないか。ルーフ君も一緒に。要件はレオナールとリーリアの事だと言えば通じるはずだ」


「かしこまりました」



 一礼し、、メイドが出ていくと、ルーリエンが立ち上がった。



「じゃあ、応接室の方に行こう。そっちで説明するから」



 リアは何の事か全くわからず、後半は混乱したままだった。

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