第4話 4、盗賊退治3

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 一時間ほど待つと向こうから米俵を載せた馬を引いてくる賊が見えた。

「竹蔵さんと梅吉さん。すぐに十字弓を二つずつ持って道の左右に隠れてくれ。竹蔵さんは馬車の前の右側。梅吉さんは馬車の後ろの左側だ。馬車の方には撃ってはならねえ。同士討ちになってしまう。撃つのは道の反対側に撃つだけだ。目の前を通った時にだけ足を狙って射(い)るだ。当らなくてもかまわない。いいかい。」

「任してくれ。」

「位置に着いたら二丁共に矢をつがえて待っていてくれ。射るときは合図するから。」

万はキセルを取り出しタバコを吹かし始めた。

 賊の馬が馬車の所に来るのに15分もかかった。

万は御者台から賊の男を風景でも見るようにじろじろ眺めた。

相手もちらっと万を見た後はうつむいて馬を引いて通り過ぎた。

「いい天気やなあ、どこに行くんだい。」

「いい天気で。この先だ。」

「わしゃあ強盗でな。その馬と米俵を欲しいんだがいいかな。」

「何を抜かしやがる。てめえ、俺様を襲おうってか。」

「そのつもりだ。強盗になるか強盗殺人になるのかはそっち次第だがね。」

「てめえ、俺様を知らんのか。」

「この辺りでは知らない顔だな。わしが知っているのは鉄砲の威力だけでな。」

万は御者台の横から銃を引き出し相手に向けた。

「さて、どうする。懐の刃物を出して向かって来るかい。弾が当るとけっこう痛いよ。」

賊はすばやく馬を盾にするように移動し、匕首を抜いた。

 「やれるもんならやってみな。」

「そうかい。」

万は銃を馬の頭を狙って撃った。

馬の頭はすっ飛んで胴体は倒れた。

「この鉄砲は威力が強いんでな。腹を狙わなかっただけ有り難いとおもわなけりゃならんよ。それに8連発だ。どうする。」

「参った。馬と米俵はやる。命は助けてくれ。」

「そうなら早く言えばいいのに。頭が無くなった馬が可哀想だろう。匕首を横に投げて地べたに這いつくばりな。」

賊は匕首を投げ捨て、馬の血だまりの中に這いつくばった。

「血だまりの中は気持ちが悪いだろう。そのまま匍匐前進(ほふくぜんしん)して乾いた地面に這いつくばりな。」

賊はそうした。

 万は馬車から紐と細長い布切れを取り出し賊の前方に置いた。

「紐の所まで這って行って、布切れで目隠しをしな。それから紐で足首を縛りな。こんなことを言っていること自体が殺されないと推測できるだろ。」

賊は無言でそうした。

「これから、お前に縄を掛けるんで立ち上がって気をつけ姿勢で真直ぐ立っていな。」

万は綱を用意して片端を馬車に結わえ、長い綱を持って賊の回りを廻った。

十周ほど綱をかけてから万はようやく結びを作った。

「七面倒な縄掛けだったがわしゃあ強い獲物に近づくのが怖いんでな。」

「おめえはだれだ。」

「猟師さ。蔵さん、吉さん、出てきてくれ。矢を外してからな。」

「仲間がいたのか。」

 竹蔵と梅吉が近づいて来ると万は指を口に近づけた。

「わしが話すんで声を出さん方がいい。名前を呼んでもだめだ。」

二人はうなずいた。

 「さて、お前さんは強盗殺人さんだろ。」

「何を言っていやがる。強盗はお前だろう。」

「殺されて強盗殺人の方がいいんかい。泥棒から物を取り返しても強盗にはならない。お前は先の農家から米俵を盗んで来ただろう。」

「違う。おれの米俵だ。」

「わしが開けた穴が米俵に残っている。運んでくる間に米がこぼれているはずだ。米を辿れば村はずれの農家の納屋に続いているはずだ。米俵を盗んで来たんだろ。」

「そうだ。」

「どこに運んでいた。山に向かう道の左側の荒れ寺までかい。」

「どこまで知っているんだ。そうだ。」

「名前はなんて言うんだ。」

「重蔵(じゅうぞう)だ。」

「二つ名はあるんかい。」

「木枯(こが)らしの重蔵だ。」

「木枯らしの重蔵さん、荒れ寺に居るのは手下かい。それとも頭もいるんかい。」

「手下だ。」

「何人いるんだ。」

「二人だ。」

「わかった、信じよう。木枯らしの重蔵さん、しばらく暖かい風に吹かれてここの林で待っていてくれ。」

 万は馬車から手ぬぐいを二本取り出し、一つを丸めた。

「木枯らしの重蔵さん、猿ぐつわをするんで噛まないでくれよ。きれいな手ぬぐいだで。口を開けて。」

重蔵は逆らわなかった。

万は重蔵を道から見えないように大木に縛り付けてから言った。

「これからあんたの手下を捕まえに行く。少し時間がかかるんで辛いだろうが待っていてくれ。木枯らしさんだったな。大木だがこの木を枯らすことができれば枯らして逃げてもいいよ。」

重蔵は何か呻(うめ)いたが「そんなものできるわけねえ」と言っているようだった。

3人は横倒しになった馬の足を綱で縛り、綱を立ち木を廻らせて馬車に結び、馬車を動かして馬の胴体を木立の茂みに隠した。

米俵と馬の首も隠した。

万は竹箒(たけぼうき)を馬車から取り出し血だまりの上に土を被せた。

 「さて、残り二人を捕まえに行こうか。」

万は途中で松助を拾って荒れ寺の方に向かった。

荒れ寺への道を通り過ぎて見張っていた杉林の場所で馬車を止めた。

「さて、どうして捕まえようかね。松助さん、どう思う。」

「一人が戻らないなら探しに行くだろうさ。そこを捕まえるだ。」

「竹蔵さんは。」

「分らねえが、万さんの鉄砲があれば大丈夫だろう。」

「梅吉さんは。」

「捕まえた男はけっこう凄みがあったでな。万さんは平気だったが、俺たちだけではビビるだろうな。」

「そうだな、戻らない理由を作って近づいてみようか。3人はここで待っていてくれ。十字弓を2丁づつ持って馬を二頭を外して林の中に隠れていてくれ。賊が来ても射たなくてもいい。相手が向かってきた時にだけ使ってくれ。相手が木だと思えばいいだ。」

 「わかった。万さんは一人で大丈夫なのかい。」

「わしが心配しているのは相手を殺さないで捕まえることだけさ。殺すのは簡単なんだが。」

万は馬車を元に戻して荒れ寺への道に入って行った。

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