お母さんとのデート②
穏やかな昼の下、小鳥のさえずりが飛び交う緑の下。
何やら頭部に程よい硬さの何かがあるなと思いながら、私はそっと目を開いた。
「眠りはどうだった華。」
「───ふぇっ?」
目を開いた先に映るのは、もう少し手を伸ばしたらキスを出来るんじゃないかと錯覚しそうな程近い一狼の顔。ワックスで決まった顔はいつもよりも色気が凄く、とても格好いい。ここが楽園か~……って、もしかして私がされてるのって───
私は頭を起こし辺りを確認しようと、頭に力を入れる。
辺りを一瞬だけ確認すると、ここは自分の家の庭だ。朝片付けた落ち葉の塊を見て、場所を理解する。
このまま起き上がろう…………しかし、髪にすんなりと浸透していく程よく硬い手で抑え込まれ、私は頭を再び元の位置に戻される。良い香りのする丁度いい硬さの何かにほっとするのと同時に、私は確信する。
ひ、膝枕されてるぅぅぅ!!
頭の中で何かが弾ける。
え?え?もしかして、膝枕NOW?滅茶良い香りするし、何か凄く安心する。これが物語でよくされている伝説の膝枕かぁぁ~。幸せで笑みが止まらない。もう、死んでも良い位に幸せ過ぎる。
この幸せを自分の体に刻みこむように、私は全神経を集中させる。
一生分の集中力をここに費やしてもいいくらいには。全力で、この一秒一秒を噛み締めたい。
そんなことを思っていると、優しくて大きな手が私の髪に触れる。
そして、そのまま私の髪を撫でるかのように優しい手付きで撫で回す。ヤバイ。これはもう──犬になってもいいくらいに気持ちいい。もっと撫でて。ワンワン。
「何度触っても触り心地いいな~何でこんなに触り心地良いんだろう?」
「~~♪」
「──って、寝ちゃ駄目だぞ華。寝たりしたらお仕置きしちゃうぞ?」
「─っ!!」
お仕置きという言葉に反応して、気持ち良さから落ちそうになっていた意識はしっかりと覚醒する。
お仕置きって?お仕置きって何をされるの?え?もしかして、あんなことやこんなことまで──
「目が覚めたならお昼寝を止めてデートの続きをしましょうかお姫様?」
「……いたい。」
おでこにつんと軽くデコピンをされる。
目の前でからかうように笑みを浮かべる一狼を見て、
一狼は私を膝の上からずらし、ピシッと執事かのように物凄いスピードで立つと、横たわっている私に逞しい腕を差し向ける。そんな腕を私はそっと離さないように掴み、そっと一狼を引き寄せて───
「まだ目が覚めたばっかで、つい引き寄せちゃった♪」
「……俺もずっと座っていたから、力加減が。」
そう言うと、引き寄せて重なりあった体を更に近付けるように、一狼は私の体を引き寄せる。私より大きい身長に、鍛えられた胸板、体からそっとしてくる良い香り。
そのまま私は、鼻血が出るのを抑えながら私の王子様と重なり続けた。
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「それじゃあ華。今日は何処へ食べに行こうか?」
「ええーっと!! そ、それじゃあ!!最近巷で有名な喫茶店に行かない?」
「そんな喫茶店あるんだね。それじゃあ、そこに行こうか。」
彼氏らしくお母さんとは呼ばずに華呼びをしながら、現在進行中で俺は街の中をお母さんと手を繋ぎながら歩いている。辺りに居るのは、女性、女性、女性。三十分近く歩いているつもりだが、男を一回も見ていない。
むさ苦しい男を見なくて済むのはいいのだが、女性全員が俺の姿を見た瞬間立ち止まり、スマホを取り出し写真を何枚もパシャリと撮ったり、華へ向けて嫉妬の視線を暇あれば送っている。華とのデートは楽しく雑談をしたり、慌てたりする可愛い様子を見ていられるからとても楽しいが、こうも注目されるとデートの気分ではなく見せ物にされている気がして嫌だ。……まぁ、隣では謎に優越感に浸っている華が居るので別にいいが。
「ねぇねぇ、そこの執事さん?そんな顔だけの女じゃなくて、私と良いところに行かない?」
「どうせ高いお金支払って付き合わされているだけでしょ?私もお金持ってるからさ、付き合ってよ。」
俺と華の前に、顔を真っ赤に染めて下の方を抑えてムズムズとしている二人の女性が、俺達の前で立ち止まる。前世でもよくやられたが、こいつらは逆ナンを俺相手に仕掛けてきた。隣に華が居るというのにだ。こいつらはもしかして、物凄く頭が悪いのか?……にしても、三十代とは思えない程可愛いくて、母性たっぷりの優しい華を顔だけの女や金持ちの女と侮辱するなんて。 少し彼氏としての格好いいところを見せたいし、ここは売られた喧嘩でも買おうか。
「俺の女に顔だけの女や金持ちの女とか言うとか、殺されたいのか?少なくとも華はお前等より顔が美しくてスタイルも完璧で、いつもは冷静だけどたまに甘えてきたり、いつも俺のことを心配してくれるお前らより何倍も可愛いくて守ってやりたいと思う女だぞ?寝言は寝て言えよ?」
自分でも臭い台詞だと思うが……どうだろう。
これで少しは彼氏として格好いいところを……って!?えっ?何ですかその目を軽く潤わせながら目で愛を訴えてくるのは。周りの女性達も全員何故か鼻血を出しながら倒れているし。とりあえず、こんな奴等相手にする必要もないから、さっさと去るぞ。
鼻血で道路の白線までもが赤く染まった事故現場のような道路から逃げたくて、華の手を引っ張る。しかし、華は俺の手を掴んだままその場から動かない。どうすんだよ。ホラーとか苦手な俺にとって、超怖いんだけどここ。あぁ。もういいや。彼氏だしお嬢様抱っこでもして、華麗にここから去ろう。
俺は華を近くまで寄せると、自分の腕に収まるように華をお姫様抱っこして、その場から逃げるように去る。お姫様だっこした華はとても軽く、幸せそうな顔をして鼻をずっと抑えていた。
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