家族④

「おおっ!!すげぇ~」


緊張しながらも、扉の取っ手に手を掛けて扉を開くと、目の前に広がる玄関に声を漏らす。紅い模様の入った鯉が三匹入った大きな水槽に、俺の背と同じくらいの大きさを持つ観葉植物。そして、その下には俺よりも少し大きなピンクと水色の女の子らしい靴が三足近く置かれていたり、 質のよさそうな革靴が置いてある。

玄関を眺めるように見ていると、母さんはそんな俺を見てか少し微笑んで幸せそうな顔でこちらを見てくる。いくら色々な女に迫られてきた俺でも、アイドル並みの美貌を持つお母さんの微笑む顔を見ると、少し恥ずかしくなってくる。


照れを隠す為に下を向くと、お母さんに手を引っ張られて目線をもどされた。


「照れてるの可愛……それじゃあ、一狼の部屋は二階の左奥だから。」

「うん。分かった。」


母さんは鼻を不自然に押さえながらそう言うと、階段の前で止まる。俺は、そのまま母さんの言った通りに階段を登り、階段を登ってから奥の部屋に入ることにした。


「おい、嘘だろ………こんな趣味持ってたとか、前の俺どんな性癖持ってたんだ?」


比較的綺麗な部屋の中に同性愛に関しての本がズラリと並ぶ本棚を見て、前の俺が同性愛者だったことを理解する。こんな本が置いてある部屋では、落ち着くことなんて絶対出来ない。一応言っておくけど、俺は別に同性愛者じゃない。男と女だったら、女の方が好きだ。……とりあえず、ゴミ袋用意するか。


俺は、ゴミ袋を取りに母さんのところへ行くために階段を下りる。

一狼は同性愛者ではないが、この世界は女性が男性を襲う事件が頻発していることにより、女性へ恐怖心を持っている男が多い。暴力や暴言を女性に向かってするのは、自分の身を守る本能でもある。そんな男達は、女性を好きになることが出来ない為、男好きに走ることがおり、世の男の七人に二人は同性愛者だ。


ゴミ袋を取りに行った後、本棚あった本を全てゴミ袋に入れると、俺は自分好みの部屋にすることにした。歪な本が無くなった今、別にこのままでも過ごしていけるが、他人の部屋に居るようであまり落ち着かないのだ。



■■■■■■


「ん?寝ちゃってたのか?」


ベットの上に置いた時計を手を伸ばして見ると、気付けば九十度以上時計の針は動いていて、小さな針はぴったりと四時を指している。自分の部屋の構成を考えている内に、気が付けば眠ってしまっていたようだ。意識があった時から三時間以上経っている。

眠さから目を擦っていると、扉が物凄い勢いで開いた。


「お兄!!記憶喪失ってお母さん言ってたけど、大丈夫!!?」

「………大丈夫だよ。」




目の前に現れたアニメのヒロインにいても可笑しくない美少女を前に固まる。髪の色はお母さんや俺と同じ色の黒色で、長いシルクのような繊細な毛が赤色のゴムで止められていてとても可憐だ。


そして俺は………一人っ子だったこともあり、妹が居るのに憧れていた。

しかも、超絶美少女である。

心配そうな顔で近づいてくる妹に近づき、俺は思わず頭を撫でる。


「ちょっ!!お兄!!急にどうしちゃったの?!!!」

「お兄ちゃんは記憶失ってる以外全部大丈夫だからな~」


撫でる度にいい匂いが漂う髪を撫でながら、妹の心を和ませるように優しく抱き締める。俺を心配してくれる妹が居るなんて、こっちの世界の俺は変な性癖を持っているが恵まれてるな。よしよし。お兄ちゃんがよい子よい子してあげよう。


「これ以上は…無理!! ぶはぁ!!」

「お、おい!! 大丈夫か? 」


この世界の男は、女性に対して恐怖を持っている。

だから、一狼のしたように男性が女性を優しく撫でるようなことはあり得ず、男のしっかりとした手で撫でられるという行為は小説や妄想の内で、多くの女性の叶わない夢だった。

そんな女性の夢である撫でられるという行為をされて、冷静を留められる者は居らず、妹の鼻血を出すという行為は正常な女性の反応である。兄妹という関係であっても、撫でられるような行為は普通ならされない。妹の反応が普通で、一狼が可笑しいのだ。


一狼は、そっとテイッシュで妹の鼻血を拭くと、自分の胸で気を失っている妹をベットの上に寝かせた。


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