第2話 パターン2

「オリコー! 貴様との婚約は破棄じゃあ~!」


 今日は学園の卒業式の日。


 卒業パーティーに臨む生徒達の、浮かれた気分を台無しにするような大声を上げたのは、この国の第2王子アホヤネンである。その傍らには最近アホヤネンと噂になっている、バッカーナ男爵令嬢の姿があった。


「婚約破棄ですか。それは構いませんが、理由をお聞きしても?」


 涼しい顔でそう答えたのは、アホヤネンの婚約者に当たるオリコー公爵令嬢である。


「貴様は俺様とバッカーナが仲良くしているのを見て、嫉妬に駆られてこのバッカーナを虐めたな! まず、バッカーナの教科書を全て破り捨てた! 次にバッカーナを噴水に突き落とした! 更にバッカーナを階段から突き落とした! 更に更に...」


「あぁ、もうその辺で結構です。どうせ全て冤罪ですから」


「な、なんだとぉ!? 何を根拠にそんなことを」


 いきり立つアホヤネンの言葉を遮ってオリコーが断言する。オリコーはタブレット端末を懐から出した。そして何やら操作する。


「こちらの映像をご覧下さい。バッカーナ様がご自分でご自分の教科書を破り捨てていますね」


「ぬなぁっ!?」


 バッカーナが間の抜けた声を発する。オリコーは更にタブレットを操作する。


「次の映像ではバッカーナ様がご自分で噴水に飛び込んでいらっしゃいますね。しかも制服の下にはちゃんと水着を着ていらっしゃいます。準備万端ですわね」


「くぎゅう!」


 またもやバッカーナが奇声を発する。オリコーは更に更にタブレットを操作する。


「更にこの映像ではバッカーナ様はご自分で階段から落ちていらっしゃいますね。膝当て肘当てヘルメットまで装備して完全防備ですね。大した者です」


「「 びでぶっ! 」」


 最後はアホヤネンとバッカーナが二人揃って仲良く玉砕した。


「大方、最近巷で流行りの小説『婚約破棄大好きです!』に影響されたんでしょうけど、監視カメラの存在を忘れてましたね? 詰めが甘いですわよ?」


 二人はその場に崩れ落ちた。


「まぁとにもかくにも婚約破棄は承りました。それではご機嫌よう」


 オリコーは軽やかな足取りでその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る