第十三話(三)
「あっという間だったね」
「部員二人だけのスパルタ部活動ってとこかね」
「そうだね。二人だけの部活動……」
「二人でギャンギャンやり合ったけど、この数週間で柳間と凄く仲良くなれた気がするよ」
「私も、君があんなに意地悪な性格だとは思わなかった」
「柳間こそすーぐ拗ねるんだから」
「そこはお互い様だね」
「いいところも悪いところも」
「ねぇ、向こうの学校はどんな感じ?」
「どんなって、そりゃどこにでもあるような普通科高校だよ」
「都会の学校は私服だったりするの?」
「あ、そうだ。受験のとき、先輩方は私服だったわ」
「私服か。都会の学校は違うんだね」
「田舎人にはかえって面倒臭いけどね。毎日がお洒落選手権なわけでしょ? 制服のほうが楽でいいよ」
「そう聞くと面倒臭いね。私はたぶん年中ジーンズで登校してるだろうな。季節に応じてシャツの長さが変わるだけで」
「だろうね。フリフリのスカートはいてる柳間想像できないや」
「スカートなんて制服だけでいいよ」
「柳間は高校生になっても柳間でいそうだね」
「なにそれ?」
「さぁね。ところで、中学卒業したばかりでずいぶん先の話になるけど、高校卒業後は大鷄島から出る?」
「ほんとに先の話だね。もちろん出るよ、小説はどこでも書けるけど、この町じゃ上を目指せないよ。妃もそう言ってる」
「のんびり暮らす分にはいいけど、バチバチに上を目指そうと思っている人間がいる町じゃないしね」
「地元に残ってると親の目もあるしね。高校を出たらある程度自立して好きにやっていくつもり。奨学金、アルバイト、できたら在学中に印税が貰えるようになりたい」
「いいね。現役女子大生作家! デビューしたら変な虫がつかないように気をつけないと」
「それは心配ないって。妃ぐらい美人だったら考えるけど、私を美人扱いする変わり者は君だけだよ」
「皆、見る目がないねぇ。柳間はこれからどんどん綺麗になるタイプだっていうのに」
「なに言ってるの……照れるよ」
「どうぞ照れてくださいな」
「君こそ向こうで彼女の一人や二人すぐできるでしょ。相手を受け容れる優しさがあるし、顔だっていい――悪くないわけだし」
「柳間ぁ、そういうのはもっと早めに言っといてほしかったな。俺、もう引っ越すんだけど」
「いいじゃん。色々あったけど、いまはこうして君の背中にほっぺたくっつけてるんだから、完璧な終わりかただよ」
「へへ。たしかにこれ以上ないハッピーエンド」
「自分で言ってて自分で恥ずかしくなってきた。……いまのは忘れて」
「いつまでも覚えとくー」
「あっそ。じゃあ、一夜の夢ってことにしといて」
「そうする。……いつかさ、早乙女さんも誘って三人で飯でも食べに行けたらいいね」
「いいね……凄くいいね、それ……」
「五年経っても十年経っても、俺達はきっと子どもみたいに好きなことばかりやって周りを困らせてるよ」
「私も一つ未来予想してもいい?」
「どうぞどうぞ」
「私と文雄がね、いつか……高校三年にしとこうか。高校文芸コンクールの最終選考まで残るの」
「ほいほい。残りました、と」
「どっちを最優秀賞にするか、揉めに揉めて、だけど最終的には私が高校文学の、頂点に、立つ」
「二階堂文雄は惜しくも日本一を逃すの?」
「悪いけど、勝つのは……私……」
「それはどうだろう。僅差で俺が勝っちゃうかもよ?」
「でも、そんな未来が待っていたら、凄くさ。……あれ? なんだろう。まいったな。今夜、私、やっぱちょっと変だ……」
「変じゃないよ。その夢、いつか絶対叶えような。勝つのは俺だけど」
「本当に行っちゃうんだね……」
「行くよ。孤独で、自由で、切なくて、小説を書くってそういうことだよ。俺も小説を選んだ人間だから。ここからは一人で行く」
「明日、郵便局でお別れだね」
「一緒に作品を出しに行って、本当にさよならだ」
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