少年は妬まれる ②

年上の子どもたちが止める間もなくエレノアとアーウェンの側に駆け寄った幼女は、グッと両手を差し出した。

「あ…あぃっ」

「え?」

その小さなこぶしの中には少し項垂れた野花が数本握られている。

「ありがとー!」

「え?」

躊躇いなくエレノアはその花を受け取ったが、領主様のお姫様に自分が摘んだ花を受けとってもらえたという興奮で顔を赤くしたのち、幼女はアーウェンの方に顔を向けるとたちまち表情を強張らせてから仲間の方へと駆け戻った。

その一連の動きに対して、挟まれた形となったアーウェンは頭を右に左にと動かして戸惑うばかりである。


一方の子ども集団は、泣きそうな顔をして駆け戻ってきた幼女を抱きかかえ庇うと、何もしていないはずのアーウェンをキッと睨みつけた。

「お、おお、おお前なんかっ!こ、こ、怖くなんかないぞっ!」

「こ、怖くなんかないんだからなっ!」

「や、やめなさいよ……」

このターランド領に居つく者のほとんどは、魔力を持っているがために迫害されたり、違和感から元居た地から逃げるように移住してきた者がほとんどだ。

それゆえ見慣れぬよそ者に対しても、犯罪を犯して逃げてきたというのでなければ快く受け入れる者が多いが、この地で生まれ育った子どもたちはそうではない。

どちらかというと閉鎖的で結束力が強く、そして排他的であった。

そんな彼らからすると貴族の子どもとしてはあり得ないほど貧相な体つきで、領主一家とはまるで色の違う漆黒の髪の少年を異様に思い、手を繋いで歩くお姫様に危害を及ぼさぬよう噛みついたというわけである。

──というよりもアーウェンのことを何か悪い存在のように感じ、自分たちの周りから追い出そうと吠えているのが本心だった。


「……どういうわけだ?」

拙い語彙でアーウェンに『出ていけ』という意味の言葉を投げつける子ども達を、周囲の大人がそれぞれ口を塞いだり押さえつけたが、それを捨ておくわけにはいかない。

言われている意味はよく分かっていなかったが、自分に向けられる声の暴力で硬直してしまったアーウェンのそばに膝をついて抱き寄せたのは、他でもないアーウェンの義父だった。



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