伯爵は疑問を解決する ③

そしてラウドに伝言したとおり、ペンティモン伯爵は妻と息子、使用人を連れて他領へと去って行った。

事情を詳しく聞き出す暇もなく、むしろ尋ねられないために引き上げたとしか思えない。

それほど素早く、一切の痕跡もないような立ち去り方だった。

「ペンティモン伯爵閣下は自身の使用人たち、夫人は自分の使用人たち、そして令息は彼に仕えさせられている者たちと分かれて移動しているとのことです」

「うん?家族は家族で、使用人は使用人と共に移動した方が無駄がなかろうに……」

ペンティモン伯爵一家の動向についての報告をロフェナが行うと、ラウドは首を傾げた。

少なくとも少年は男親、少女ならば女親と乳母が一緒に、もっと幼ければ男親の方は家臣と共に移動するにしても、子供達は母親と馬車を同乗するというのが、護衛的にも護りやすいはずである。

それが最小でも馬車三台に分乗するなど、たかが休暇のために大袈裟と言えた。

ターランド伯爵当主であるラウドも息子であるリグレ、その専任従者であるロフェナと同じ馬車で移動し、他の使用人は大型の馬車三台で移動中の衣装などと共に分乗して帰ってきた。

その周りを護衛の者たちが騎乗していたが、主人家族が分かれればその分また護衛を増やさねばならないのだから、ラウドが疑問に思ったのも当然である。

それにペンティモン伯爵家は武力ではなく文官として王宮に職を得ているのだから、私兵はそう強力なものではない。

情報収集的任務が多いという認識にあるが、魔法による後方支援や武力を誇るターランド伯爵家はそういう意味では武の方に比重を置いていて、王都に控える兵力を多少割いても問題ないぐらいだ。

「ええ……しかし、彼の伯爵家の方々は、それぞれに好みの使用人を連れているようで……」

「好み」

ロフェナが眉を寄せて額に指を当てつつ主人に報告を続けたが、その仕草と声音でラウドはやや嫌な予感を覚えた。


主人のそばにいる男性使用人は同年代の執事だけで、他には女性使用人を十数人──それも皆十代前半で容姿も幼げな者を選んでいる。

女主人は同年代の侍女ひとりだけ、他は二十代半ばの容姿の良い男性使用人ばかり。

令息の使用人は女性ばかりで十代後半から二十代前半のやはり容姿が良い者たちばかり。



「……何なんだ、その偏り方は」

「ええ……ですので万が一ということもあるかと『耳』のひとりが探りを入れたところ、どうやらご子息の縁談申し込みが上手くいった暁には、エレノア様の侍女として付いていくことになるであろうラリティスをペンティモン令息の愛人として手籠めにし、エレノア様は自身の『コレクション』とやらに加えるという計画を立てていた…と」

グシャリと手の中で報告書が握り潰されたが、それと同時にパキンという音がしてラウドの指がかかったティーカップが凍ってヒビが入る。



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