伯爵は疑問を解決する ②

しかしかの伯爵令息の素行はあまり褒めたものではないだろう。

ターランド伯爵は女性関係に関しては倫理感が強いことは有名で、こういった話に嫌悪感を抱きやすいことを知らなかったとは思えない。

「しかし彼の言動は貴族令息としてもあり得ず、寮生としても礼儀に適っていないということで、監督生どころか寮長先生からも注意を受けていました。ペンティモン伯爵令息は現在、寮内では同行者がいなければ好き勝手に歩くこともできないぐらいです」

「……なるほど」

だからこそターランド伯爵家と縁を持ち、少しでも態度が改まったように見せたいのだろう。

しかしそこまで考えていて、今さら何故ラウドに会う約束を反故にして領都から発つという連絡を寄こしたのか──

「おそらくは、ノアのドレスが破られたことに原因があるのかも……しれません……」

「ノアの……?ああ、ノアがペンティモン伯爵に抱きかかえられたものの、暴れて落ちそうになったところを、アーウェンが助けたのだとか……それとどういう関係が?」


そこでようやくリグレは、前日に起こった出来事を父に話すことになった。


しかしその瞬間を全部見ていた者は少ない。

突然立ち上がった伯爵を正面から見ていた者はほぼ無く、その腕の中にエレノアがいたと思った瞬間に、藻掻いた小さな身体がスルリと動いたのである。

アーウェンが飛び込んだのを見た者は小さな少年が倒れ込むのに身を竦め、すぐ後ろにいたカラも含めとっさに動けなかった者がほとんどだった。

そして肝心のリグレと言えば、目の前から妹の身体が消えたのに驚き、さらにアーウェンが動いたのに意識を向けてしまって、エレノアがどうして宙から落ちてきたのか一瞬分からなかったのである。

真実を語るべきペンティモン伯爵当人はその場から逃げ出し、証言できた少年の言葉を裏付けるにも皆、年配の貴族が姫様をいきなり抱き上げた理由などわからずポカンとしていたのだ。

もうひとりの証言者であるはずのアーウェンは大事を取って、ラウドやリグレとは別に食事をとっており、現在はヴィーシャム夫人自らが愛娘と一緒に休ませている。


ふたりに何が起こったのを聞くのかは、もう少し気持ちが落ち着いてからの方がいいだろう。



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