伯爵夫妻はそれぞれ考える ②

ヴィーシャムは『ターランド伯爵夫人』として、悠長に構えていればいいわけではないと感じていた。

少なくとも今はギンダーがひっそりと胸にしまっているだけのようではあるが、アーウェンだけでなく、カラやクレファーに対しても懐疑の目を向けている。

今のところ、あの子の世話に関しては主にカラが行い、足りないところは王都から連れてきた侍女たちが手を貸している状態だ。

それはいずれアーウェンがカラを従者として同行させ、ウェネリドン辺境伯のもとへ行かせるという計画が夫の胸の中にあるからと理解している。


むろんそのことに異議があるわけではない。


計画外だったのはアーウェンの養育環境が想像よりひどく、報告されたものよりも最低限の底辺で、『生きているのが不思議なくらい』としか言いようのない状態だったことだ。

サウラス男爵家は貧乏だった。

だがそんなふうに困窮に喘ぐとまではいかずとも、切り詰めて生活をしている貴族がいないわけではない。

むしろ彼は爵位の低さにも関わらず、一族の長であるターランド伯爵の温情で小さな村とはいえ領地を与えられ、それをちゃんと運営していれば子供たちに人並の生活や教育を与えられるだけの収入はあるはずだった。

それが適切に行われていないとしても、それはサウラス男爵の責任であり、袂を分かって永いラウドが勝手に取り上げてしまえるものでもない。


だが──


「……わたくしが間に入らねばならないかしら?」

「どうしたんだい?ヴィー?」

ポツリと漏らしたその言葉に反応したのは、やはり夫だった。

妻が何を考えているのかお見通しという顔をしつつ、それでも問いかける表情を浮かべる。

何と器用な人かと思いながら、それでもヴィーシャムは許可を取らねばならない。

「ギンダーのことですけども」

「ああ」

「わたくし、アーウェンのことを特に気にかけるように言おうかと」

「アーウェンのことを?」

「ええ。あんなふうに遠巻きにしているのもどうかと思いますの。ならばいっそのこと、この城にいる間だけでもあの子のそばに添わせて、しっかりと見極めさせることも必要かと……」

「……ふむ」

自分は待つつもりだった──ギンダー自身が待ちきれなくなるまで。

だが妻はあえてそのそばにギンダーを置き、アーウェンという子供を含めたあの3人を真正面から目を逸らさずに見ざるを得ないようにし、偏見だけで人間を決めつける愚かさを教えようとしているのか。

「それでも見誤ったら?」

「それがあの者の限度でしょう」

必ずしも当主夫妻の目だけが正しいわけではない。

けれども、それでも、アーウェンに関して、カラに関して、そしてクレファーという人間に関して、どういうものか、どんな為人ひととなりか、見極めるだけの時間はかけてきたつもりだ。

だから完全に一致するとまではいかずとも、評価にあまりズレが生じるはずがない。

それでもやはり「アレらは何か企んでいます」と言ってきたのならば、いろいろと考えねばならないだろう──ギンダーという男が、ターランド伯爵家にふさわしいのかどうかを。



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