少年は毎日学ぶ ①
ターランド伯爵領本邸にある本だけでなく、様々に不思議な物があった。
生活のための火熾しの道具などでも魔力を込めて使うなど、普通の人間では扱いようもない物だったが、このターランド領にいる者は多くが属性判別のつかない魔力を持て余している。
「……アーウェン様に教えるどころか、私の方が学ばねばならないことが多くあります」
実際クレファーも自分に魔力があることを知っていても、どうやって使えばいいのかわからなかったのだから、生活道具を起動するのに魔力を注ぐということに驚いている。
しかも彼だけでなく父も微量に魔力を持っており、無意識に『食材の良し悪しを判断する』ということに使っていたらしい。
残念なことに母と妹にはそういった便利な力はなかったが、だからといって差別されることもなく、新参者ながら新しい生活を気にかけてくれる者が多いと嬉しそうに話してくれた。
「では、クレファーせんせいのご…ごかぞく、も。えぇと……しわよせに……」
「そこは『幸せ』ですよ。『皺寄せ』というのは誰かが不利益を被る……いや、これもまだ難しいですね……自分がやらなければならないことを、他の誰かにやってもらうのだけれど、その人にも自分のやらなければならないことがあるので、とても大変になるということです」
「と…て…も…た・い・へ・ん」
「『幸せ』は心が平和だったり誰かと分かちあって嬉しいと思うこと…でしょうか。様々に使われるので…ああ、あった。運がよいとか、不満がない、さいわいなど……いえ、素直に『良かったなぁ』と思うこと、と覚えましょうか」
「し・あ・わ・せ…よ・か・った……」
会話をする。
文字にする。
記憶する。
生活のひと場面、ひと場面──それらのすべてが、アーウェンにとって学習の場だった。
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