少年は『城』を巡る ①

王都のターランド邸の広さにも驚いたが、この領都の邸はもっと広かった。

アーウェンやエレノアといった子供が入ってはいけない場所があるということで、主に家族だけで使う部分を回ったが、それでも部屋数が多くて疲れてしまった。

食堂はふたつ、大きな暖炉のあるリビングにその半分ぐらいの広さのもう一つのリビング、アーウェンが朝のうちにカラに連れられて庭に出たテラスのあるサンルームなど。

アーウェンとエレノアのそれぞれの部屋ももちろんだが、勉強をするための部屋、嫡子リグレの部屋、両親の部屋、父と母それぞれの執務部屋といくつもの廊下や扉の前を通過する。

さらに上階には使用人たちの寝室があるということだったが、そこに上がることは許されなかった。

「アーウェンもエレノアもいずれ社交界に出ることになる。その時にはまた改めてあちらの遊戯室や応接室などを見せよう。大ホールなどはお母様が連れていってくださる時には入っていいが、子供だけではだめだよ」

「はい」

「あい!」

少し疲れ気味のアーウェンと、すでに父に抱き上げられているエレノアがそれぞれ返事をする。

「……ちょうどいいな、図書室にお茶を。子供たちには何か食べる物を……晩餐に響かない程度の物を」

「畏まりました」

義父が扉の横にいたメイドに声をかけると少しだけ身体が上下し、子供たちに笑顔を見せることなく立ち去るのをアーウェンは不思議な思いで見つめた。

王都の者たちは皆親しげで、アーウェンに微笑んでくれるのが普通だったのである。

「この図書室には絵本や物語など、エレノアやアーウェンが読みやすい物も置いてある。お母様が編み物などをなさる時もあるから、一緒に使ってよい」

促されてアーウェンはその部屋に入ったが、天井が高く部屋の中なのに階段と回廊がぐるりとある。

しかも窓と窓の間に本棚があり、そのどれもにたくさんの本が置いてある。

そのうちの一画に向かってラウドが手を向け、アーウェンとエレノアは手を繋いでそちらへ向かった。

「あーにーしゃま!うしゃぎのえほんがありましゅ!よんでくだしゃい!」

「えぇ?よ、よめる…かなぁ……」

さっそくエレノアは自分のお気に入りの本を見つけて引っ張り出し、アーウェンにせがんだ。

「ああ、旦那様」

上の方から声が降ってきてそちらを見上げると、アーウェンが上がってみたいと思っていた回廊に続く階段にクレファー先生がいるのに気がついた。



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