少年は見かけを整える ③

質問は続く。


毎日のご飯は美味しいか。

朝はいつぐらいに起きるのか。

昨日の夜はどれくらい食べたのか。

本は好きか。

この邸の庭に咲いている花を知っているか。

泳ぐことはできるか。

外遊びで一番好きなことは何か。


ご飯のことはともかく、カラに助けを求めることも多く、アーウェンの側に椅子を持ってきて座るようにと言われる。


ご飯は少しずつの量であるが、何でも食べる。

朝は早い。以前は早過ぎたが、今は兵たちが訓練するのと同じぐらい。

昨日の夜はスープに浸したパンと温めたミルク、鱒のクリームソース掛けを少量ずつ。

まだ学習中で本は読むが、外に出て刺激を受ける方が好き。

庭に出るよりも訓練場にいて兵たちと訓練や遊んでもらうことの方が多い。

泳ぎはしたことがない。『泳ぐ』という意味がアーウェンにはわからなかった。

外遊びというのは兵たちに構ってもらうのと同義語である。


「ふむ……では、今はよく眠っていらっしゃる?」

「え……?」

キョトンとしたアーウェンはよくわからずカラの方に視線をやったが、つい頭を動かしてしまったために、優しくフェンティスに向きを直されてしまう。

「そうですね……ええ、昨夜は・・・ちゃんと眠っています・・・・・・・・・・

自分の寝ている状態などわからずにカラに助けを求めたのだが、考えてみれば彼だって夜は寝ているはずだ。

だがアーウェンの失敗したという表情に微笑みかけながら、カラはちゃんとアーウェンの睡眠時の様子を話してくれた。

「ちゃんと……そうでない時も……いや、それは後にしましょうかな。ラン、ブラシを」

そう言われてランと呼ばれた少年は、師匠に小さめのブラシと羽根ブラシを渡す。

その指先は水仕事で荒れていたが細くて、何となくカラはずっと見ていたいと思ってしまった。

俯いたままでひとつ頭を下げると、顔を見られないようにかサッと部屋の隅に下がったが、思わずその動きをカラは目で追ってしまう。

「うわぁ………」

サラサラと布を擦るような音がいつの間にか止んでいて、可愛らしい驚きの声が上がった。

クルッと視線をそちらに戻せば、切られた髪の毛が綺麗に取り除かれたアーウェンがマントを外され、自分の頭が整えられているのを鏡越しに見て驚いている。

「カラ!ぼく、ちがう!」

笑う。

笑う。

大きく笑う。

笑って──泣き出した。



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