少年は混乱する ②
ベッドの中で着ていたのは、この家に来る時に着ていた兄たちからのお下がりの一張羅ではなく、真新しく白い病人のための下着のような──すぐ上の兄がいつもベッドで着ているような裾の長いシャツだった。
「…あ、あの……ぼ、ぼくの……ふくは……?」
「あちらは今、お洗濯と繕いに出しております。よろしければこちらをお召しになるようにと」
そう言って差し出されたのは誰かのお下がりのようだったが、それはアーウェンが窓の外からそっと覗いた時に見かけて羨ましく思っていた男の子が着ていた物によく似ていた。
「これ……」
「お身体のサイズがわかりかねましたので、あなたの義兄上様になられますリグレ様がご幼少の頃に身につけられていた物です。いずれ新しく仕立てるとのことでしたので、本日はこちらで許してほしいとのことでした」
「ゆ、ゆるすって……そんな……こんなすてきな……」
呆然とアーウェンは上等な布を撫で、それからギュッと抱きかかえる。
誰かのお古でもいい──継ぎ接ぎも繕いの跡もない、
本当に産まれて初めて──アーウェンは産まれた瞬間から、兄たちが次々と使い洗われ続けてすり切れた産着とおしめを身に着けられ、一度たりとも新品だったり新品同様の服も靴も与えられたことはない。
それが今は手の中にほとんど新品と言っていい状態の服があるなんて──
実年齢よりも幼い頭では理解が追いつかず、ついにアーウェンは泣き出した。
「ああ、驚かれてしまいましたか?大丈夫です、きっとお似合いになりますよ。よろしければ奥様達にお会いになる前に湯浴みいたしましょう。いつもですとお夕飯前に入っていただくのですが……」
グスグスと泣き続けるアーウェンは大人しく従僕に手を引かれ、されるがままに入ったことのないお風呂に浸かり、呆然としてる間に洗われ濯がれ、ふかふかのタオルで体を拭かれた。
いつしか泣き止んだアーウェンはようやくここが自分の家ではなく、伯爵家にいまだ居ることを飲み込んで、表面だけは落ち着きを取り戻して、ベッドルームに繋がる着替え室の鏡に映る自分を見つめる。
「いいお顔です。これから伯爵家の奥様とお嬢様がいらっしゃるお庭にご案内します。ご挨拶はできますね?」
コクンと無言で頷くアーウェンは従僕に手を取られ、まるで幼子のように部屋を出て長い廊下を歩いて、大きなサロンから庭に連れられた。
「奥様、お嬢様。アーウェン様がお目覚めになられましたので、お連れいたしました」
庭は広く、アーウェンが父の領地に行くと一緒に遊んでくれる兵隊たちが訓練している場所のようだった。
もっともただの草原を簡単に手入れしただけの訓練場とは違い、様々な花がそこかしこに植えられ、生垣は丁寧に刈り込まれて、おまけに小川まで流れている。
そのそばに建てられた
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