残念ながらオレのジョブは主人公向きじゃないようだ
おじゃる.com
第1話 異世界転生
優しく温かい風が肌に当たって目が覚めた。目の前には木が生い茂っている……森、なのか? 明らかに見覚えのない場所だ。
「……うん、これは転生ものか夢のどっちかだ」
99.9%夢でしかないんだが、転生もののラノベや漫画を読みすぎたせいか、悲しいことにオレの脳ミソは転生脳になってしまったらしい。
そんなことを考えていると轟音と共に真横を火の玉が通り過ぎた。
「熱っ!! 」
反射的に後ろを振り返ると、だいぶ離れたところにローブを羽織った人影が立っていた。
驚きのあまりその人影を凝視したまま固まっていると、何やら怪しげな動きをし始めた……まさか、また撃ってくる気じゃないだろうな?
そして予想は確信に変わる……
だって手元が光り始めたもん。転生して早々に事件に巻き込まれる展開は転生モノでよくあることだが、自分の身に起こるとさすがにたまったもんじゃない。
頭の中を整理していると、ローブの奴の準備が整ってしまったようだ。……だって火の玉持ってるもん。こういう時は何を説明しても無駄なのは分かってる。選択肢はひとつしかない! 相手が火の玉を放った瞬間、オレは射線から外れるように森に向かって走り出した。
——オレは息が切れるまで走り続けた。
これだけ走れば十分かな……正直どれくらい走ったのか分からないが、最初に目が覚めた場所よりは木も多いし遥かに暗い。
「だいぶ森の奥深くまで来ちゃったかな?」
走り疲れていたオレは、何気なく後ろを振り返る……
「うぎゃぁ!」
産まれて初めて全身の毛穴から声が出た。それも無理はない。振り返ったオレの顔に、くっつくんじゃないかってくらいの距離にローブの奴の顔があった。走り疲れていたこともあったて、反射的に腰が抜けた。
「なんなんだよ!お前誰なんだ!」
我ながら中身の無い幼稚ようちな反応をしてしまった……という後悔と同時に、火の玉を撃ってきたローブの正体は女性であることに気づく。暗い森の中でひときわ目立つ金髪、瞳は灰色、清楚さに包まれた美女であった。(……めちゃくちゃ可愛い)
「この森は危険です。早く出ましょう、私についてきてください。」
——あんたのほうが危険だと思うんだが。とか言ったら火の玉撃たれそうだよな……なんて考えていると本当に火の玉が飛んできた。慌ててしゃがむオレ。本日3回目だ。さすがにひとこと言ってやろうと思った瞬間、オレの後方から火の玉の爆音と、何者かのうめき声のようなものが聞こえた。
声のほうに目をやると木が燃えていた。めちゃくちゃウネウネしながら燃えていた。(気持ち悪っ。)どうやら彼女はオレに近づく魔物を攻撃してくれたらしい。
ということは1発目と2発目も……そう考えるとこんな森の奥深くまで走ってきた自分がバカバカしく思えてきた。
「今の爆発で多くの魔物がこちらに集まってくるでしょう。早く脱出しなければ……立てますか?」
火の玉の威力とは正反対の優しい声。しかし、残念ながら俺にはもう走って逃げられるほどの体力は残っていなかった。「立つのが精一杯です」と言いながら立ち上がると、彼女は思いもよらぬ行動に出た。
「お顔をこちらに。」
お顔をこちらにって……
そう、彼女はオレに駆け寄り、抱き着いて背伸びをしながら顔を近づけてきた。(上目遣いが可愛過ぎる。なのに強引なところがまた萌えるーーー!)
「お気持ちはありがたいんですけど、出会って間もないし、こういうことはお互いをよく知るところから始めたほうが良いんじゃないかなぁと思いますよ?」
紳士ぶってしまった。こんなラッキー展開なのに紳士ぶってしまった。頭の中でいろんな感情がグルグル巡っていたが、森の奥から聞こえる大きな足音やうなり声と、目の前の彼女の怒った声で我に返る。
「もぉー!早くしてください!」
彼女はオレの態度に苛立ちながらも、徐々に顔を近づけてくる。こんなに可愛い子とキスできるなら、オレの異世界転生人生が終わってもいいか……どうせ夢だろうし。ぼんやりとそんなことを考えながら彼女を優しく抱きしめる。
そして目をつぶって待つ彼女の顔を見つめながら、ゆっくりと顔を近づける。
「えっ?」
彼女の唇とオレの唇が重なろうとした瞬間……突如まばゆい光に包まれ、オレは意識を失った。
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