届かない届かない

 兄が付き合っている女性はえらく束縛が激しい人だ。

彼女は被害妄想が激しく、同時に粘り強い性格も持ち合わせている。

そんな恐怖のお話。


〈離れてくれれば僕はきっと救われる。〉


 1000件を超えたメールは全て兄の彼女さんからだった。

二度と送らないで欲しい、二度と送ってくるな。

君と近くに居たのは僕の兄で、僕は君と付き合った覚えは無い。

これが僕の素直な感想である。


「電話は1コールで出ろって言っただろ、糞が!」


どうしてそんなに怒っているの?どこまで後をつけてくる?

近いうちに殺されるのだろうか。刃物で刺されて死ぬのだろうか。

拒むことは許されないのだろうか。

ふと彼女の右手に気づくと、恐ろしくてたまらない。


「だから兄はいない、君とは付き合えない、これ以上付きまとうな」


もう辞めてくれ。僕は君の彼氏ではなく、その弟だ。

君が何を考えているのか本当に解らないよ。

僕に気持ちは届かない。人違いだ。


何度引っ越しても直ぐに家の場所が特定されてしまう。

もう嫌だもう嫌だ、不安の感情だけがただただ頭を駆け巡る。

疑心暗鬼。

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