第37話ブライアン団長 続

「サフラン!」


ロズワール伯爵が娘をたしなめようと声をかけようとすると…ブライアンがそれを止めた。


ロズワール伯爵の前に手を出すと黙ってろとジッと睨みをきかせる。


するとロズワール伯爵がグッと息を飲み込み黙り込んだ。


「あっ!ブライアン騎士団長様!ここに来たと言うことは…ルーカス様がなにか…」


サフラン嬢はブライアンを見るなり瞳を輝かせた。


「ルーカスが何かとは?」


ブライアンは感情を抑えて笑顔を見せる。


「それが先程ルーカス様に会いまして…なにか勘違いをなさっていたようです。きっと落ち着いたら謝罪に来て下さると信じておりました」


この娘は…頭が湧いてるのか?


ブライアンは信じられないものを見る眼差しで見つめた。


しかしサフランはそんな事には気づかずにベラベラと話し出す。


「ルーカス様の周りに本当に目障りな女、子供がおりまして、私に不敬を働いたのです!庶民の癖に私の足にしがみついて来たのですよ!」


そう言って少し破れたとドレスの端を見せた。


「ほぉ…」


ブライアンはそういうのがやっとだった。


「ですからきちんと罰を与えておきました!令嬢としての嗜みですわ」


それを誇らしそうに顎を突き上げて話す。


「ルーカス様の伴侶となるならそれなりの立場でいないといけませんからね…それで団長様。ルーカス様とのお話は?ルーカス様が聞いてないなんてとぼけておりまして…私とっても傷つきましたの」


しゅんと悲しそうな表情で上目遣いに見上げてきた。


ブライアンはひっぱたきそうになる手をグッと左手で押さえ込んだ。


「そうですか…概ねルーカスから聞いていた話と同じ…いや、それ以上でした」


「ですよね!私も驚きました…あんな方をそばに置くなんてルーカス様らしくありませんわ」


「ルーカスらしく?それはどういう事ですか?」


「だってルーカス様はいつも冷静沈着で女性に見向きもしない方ですよねそれがあんな下品な人をそばに置いて感情的に…ルーカス様の評判が落ちてしまいますわ!それにあの子供もそうです!ルーカス様がなぜあんな子供を雇っているのかわかりません!」


ブライアンは静かに話し出した。


「なら教えて差し上げます。あの子供はアリス様といいルーカスのお姉様のお子様です。名はラッセル侯爵と言えばわかりますか?」


「こ、侯爵!?」


「そのお方は…最近不慮の事故で亡くなったグリス・ラッセル侯爵の事ですか!?」


黙っていたロズワール伯爵が声を荒らげた。


「さすがに知ってますよね…ええ、あのグリス侯爵の忘れ形見のアリス様ですよ。あなたはその子を足蹴にした…その意味はわかりますよね?」


「ち、違う!私じゃ…」


サフランはブンブンと首を振った。


「おや?あなたではないと?おかしいな…ルーカスやアリス様があなたによく似た人に酷いことをされたと言っておりましたが…ほら、これが証拠ですよ」


ブライアンは無惨に踏まれたリナの作った料理を懐から取り出した。


そこにはくっきりと足跡が残っている。


「この足跡…あなたの足のサイズにピッタリそうだ…それにこの靴の形、あなたならきっとオーダーメイドで作らせていますよね?ならこの足型が一致した時はわかってますね…」


サフランは自分が踏みつけた料理を突きつけられてへにゃっと地面に座り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る