第26話 焼肉サンチュ巻き

 山下のおすすめのゲームを購入し、プレイするリーゼ。


「このっ、この……こうか?」


 リーゼはゲームに熱中しているようで、興奮してプレイしている。

 彼女がやっているゲームをキッチンの方から横目で見てみると……どうやらレース系のゲームらしい。

 カートに乗ったキャラクターを操作し、アイテムで他のキャラクターを妨害しながらレースを勝ち進んでいくようなゲームだ。


「楽しそうだね、リーゼ」

「うん? ああ。悪くないな……ああ、もう」


 どうやら敵に攻撃されたようで、怒り心頭のリーゼ。

 彼女がこんなに感情むき出しなのも、珍しいな。

 そしてゲームをするリーゼもまた美しく思え、棒は彼女の顔を眺めて呆けていた。


 っと、いけないいけない。

 僕は料理の真っ最中であった。

 リーゼに喜んでもらうために料理を頑張らなければいけない。

 誠心誠意、全力を持って彼女の食事に向き合うのだ。

 と言っても、今日は簡単な料理ではあるのだけれど。


 適当なサイズに切った牛肉に塩コショウをし、フライパンに投下。

 ジューッとフライパンの上で踊り出す肉。

 香ばしい香りも漂い、リーゼはクンクン鼻を鳴らしている。


 食事が楽しみなのか、ほんのり笑みを浮かべながらゲームをするリーゼ。

 これは美味しい物を提供しなければいけないな。

 まぁ味付けもそんな苦労しない、というか決まった味の物を提供できるのでその点は心配ないのだが。


 片面が焼けたであろうと考え、僕は肉を菜箸でひっくり返す。

 こんがり黄金色に焼けた牛肉。

 見ているだけで涎が垂れそうだ。


 肉はあっという間に焼け、それを皿に盛る。

 これで完成。

 うん。ビックリするぐらい簡単な調理だ。


「できたよ、リーゼ。ゲームは後にしよう」

「ああ。ここが終わったら止めるよ」


 レースはもう最終ラップらしく、カートは走るだけではなく、宙を舞っていたりしていた。

 えらい派手なレースだなと思いながら眺めていると……リーゼは一位でゴールする。


「上手いもんだね」

「お前の料理も美味かったらいうことないな」

「ふっふーん。その点心配しなくていいと思うよ。だって味は市販のタレに付けるだけだからね」


 僕はテーブルに焼いた肉を置く。

 そして小皿と焼肉のタレを出し――


 サンチュという野菜もテーブルに置いた。


「なんだこれは?」

「これはサンチュって言うんだよ」


 サンチュとはレタスの一種で、薄緑色をしたいわゆる葉っぱである。

 これでタレにつけた肉を包んで食べるそ、れだけで美味しい焼肉料理。

 料理と言っていいのか分からないけど、とにかく料理なのだ。


「ほら。こうやって肉をタレにつけてサンチュで巻いて……」


 僕はそれらを食べれる状態まで仕上げ、リーゼに手渡す。


「ほら。食べて」

「いただきます」


 シャリッとサンチュを噛む音がし、リーゼは肉をもぐもぐと食べている。


「……うん。美味しい」

「そう、良かった! 今日は肉を五キロ買っておいたから、まだまだあるからね」


 僕は美味しそうに頬張るリーゼの顔を見ながら、次々と肉巻きを作っていく。

 作ってはリーゼに手渡し、まるでわんこそばでも提供している気分だ。

 肉はリーゼの口の中に消えていく。

 しかし本当によく食べるなぁ、リーゼは。

 

 肉が無くなったので、追加の分を焼くことにする。 


「まだまだイケるから、ドンドン出してくれ」

「OK! ちょっと待っててね」


 肉を豪快にフライパンにぶち込む。

 とにかく今は量だ。

 リーゼの空腹を満たすために肉を焼き続けるんだ。


 もうさすがに肉を包んであげるだけの余裕がなくなってきたので、肉とサンチュをテーブルに置いて、さらに僕は肉を焼く。

 リーゼの方をチラリと見ると、彼女は幸せそうに肉巻きを食べている。

 あれだけ食べてもまだ美味しそうに食べて……

 これは下手したら、五キロ全部食べるかもしれない。

 僕はリーゼの胃袋に驚きと恐怖を覚えながら、フライパンと箸を動かす。


 自分自身もお腹が減ってきたので、肉巻きを作ってつまみ食い。

 シャキシャキするサンチュの触感と、内側から肉のうま味が広がっていく。

 うん。美味い。

 これはサンチュのおかげで肉だけで食べるよりもあっさりしているので、いくらでも食べられるぞ。

 

 追加の肉が焼けたので、リーゼの方に肉を持っていく。


「……え? もう全部食べたの?」

「ああ。あっという間に無くなったぞ」

「あっという間に無くなるような量じゃないんだけどな……」


 リーゼの口の周りが油でツヤツヤになっている。

 なんだか美味しそうな唇……なんて思ったりするが、それより肉だ。


 サンチュを冷蔵庫から取り出し、肉を怒涛の勢いで焼いていく。

 いや、これ本当に五キロ食べきってしまうんじゃ……


 僕の予感は的中した。

 フライパン二刀流で肉を焼いて、なんとかリーゼの食べる速さに対応していたが……

 彼女の満腹よりも肉の方が先に底を尽きた。 

 僕は唖然として可愛い奥さんの顔を見ながら、訊ねてみる。


「ね、念のために訊いておくけど……後どれぐらい食べれそう?」

「今回が五キロなんだろ? だったら……合計7キロぐらいは食べれそうだな」

「な、七キロ……ですか?」

「? こんなもんじゃないのか?」


 いや、こんなもんじゃありませんから。

 僕はただ呆れるばかり。


 リーゼがよく食べるのか、エルフがよく食べるのか。

 どちらかは知らないが、とにかくさらに食費がかかることだけはこの時よく理解したような気がした。

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