第24話 山下絵美里

 リーゼとショッピングモールを歩くも、僕は彼女に夢中で商品などには目が向かない。

 ずっと彼女の横顔ばかりを眺めていた。


「ほら。これなんかどうだ?」


 リーゼは自分の身体に茶色の服をあてがい、僕にそう聞いてくる。

 可愛くないわけがない。

 だが直接そんなことを言っても僕の気持ちは全部伝わらないだろう。

 どうすればリーゼに僕の感じている気持ちが伝わるだろうか……

 そう考え、僕は思い浮かんできた言葉を吐き出す。


「この宇宙の中でも、一番似合ってるんじゃないかと思えるぐらい似合ってる」

「……宇宙の中? 宇宙って、この星の外にある、あれだろ?」

「……宇宙にも人が住んでるかも知れなくて、それらも含めた全員より似合ってるって言いたいの!」

「ふーん。そう」


 僕たちの常識は違う。

 宇宙人とか地球外生命体とかそういう概念は知らなかったようだ。


 リーゼはいまいちピンときていないらしく、首を傾げている。

 もっと他に言いようがあったかも。 

 なんて、少し落ち込んだ僕。


 だが別のどこかで挽回すればいいか。

 どれぐらい僕がリーゼを想っているのか、それを教えてやる。

 まぁ、そんなことをしても意味はないのだけれど。


 リーゼは気に入った服があったらしく、購入をしていた。

 買い物袋を手にして店から出て来たが……なんとリーゼが空いている方の手で僕の手を握る。

 あまりの嬉しさに、僕は奇声を上げそうになった。

 だが我慢だ。

 変な人と一緒にいる美女。

 なんてリーゼがそんな風に思われてしまう。

 旦那として彼女の評価が下がるようなことは止めておくのだ。


 って、評価が下がるのは基本的に僕なのだけれど。


 彼女の手の温もりを感じながら歩く通路は、まるでお花畑でも歩いているようだった。

 麻薬なんかで気分がよくなってるのって、こんな感じかな? 

 

「ここには本当に色んな物があるんだな。見て回るだけで楽しいよ」

「僕は見て回って楽しんでるリーゼを見て楽しいよ」

「そうか? まぁ楽しみ方なんて人それぞれだから別にいいけど、もっと他のことも楽しんだ方がいいじゃないか?」


 リーゼは鼻歌を口ずさみながら、服を見て回っている。

 僕は彼女の綺麗な鼻歌を聞き、そしてリーゼから香る柑橘類の匂いを嗅ぎながら、一緒に見て回った。


 服屋が大量に並んでいるフロアから移動すると、今度は目の前にゲームセンターが見える。

 僕はリーゼにゲームセンターがあることを指差して伝えた。


「ほら。あそこにゲームセンターというところがあるよ。あそこでゲームできるから、ちょっとやってく?」

「ゲームか……購入する前にやっておくのもいいかもな」


 家庭用のゲームとはちょっと違うんだけど……

 まぁいいか。


 僕たちはゲームセンターに足を踏み入れる。

 リーゼは少々音が気に入らないらしく、耳を塞ぐ。


「ここはうるさいな!」


 リーゼはどうも耳がいいらしく、これだけの音がうるさかったら頭に響くらしい。

 仕方なく僕たちはゲームセンターから飛び出し、遠くから店を眺めることにした。


「これがゲームなら私はいらないな」

「家じゃ音量の調整は自分でできるよ」

「そう。なら良かった」


 リーゼはホッとため息をつく。

 そんなにゲームやりたかったんだ。


「耳が良過ぎるのも、問題だね」

「そうだな。ヒソヒソ話をしていても聞こえてくるからな。学校なんかじゃ、私の噂をよくしているみたいだけど、こちらには筒抜けだからな」


 なるほど。

 リーゼの近くじゃ小声で話をしていてバレてしまうと……

 しっかりと覚えておこう。

 と言っても、僕は彼女意外とほとんで話さないけれど。


「あ、リーゼ」

「……ああ。山下」

「旦那くんも一緒なんだ」


 ゲームセンター前にいる僕たちに話しかけてきたのは、同じクラスの、山下絵美里やましたえみり

 自然な茶髪は肩まで伸びており、スタイルもいい美少女。

 クラスの中ではリーゼを除くと一番人気で、彼女に告白している男子の姿は幾度も見たことがある。

 と言うか、旦那くんってなんだよ。

 そんな彼女はゲームセンターから出てきて、僕たちに声をかけてきた。


「山下はゲームしてたの?」

「うん。そだよー。私ゲーム好きでさ」

「へー」

「ゲームの話もこいつから聞いたんだ」

「……なるほど」


 突然ゲームがやりたいなんて言い出したのは、山下の所為か。

 別に悪いことじゃないからいいけどさ。


「一緒にゲームやってく?」

「いや。どうもここはうるさ過ぎて居てられないんだ」

「ふーん……じゃあ耳栓買いに行く?」

「そこまでしてやらせる!? 別に遊ぶならゲームセンター以外で遊べばいいじゃないか」

「だってゲーム楽しいんだもん! そういう気持ちを友達とシェアしたいって思うのが当然じゃない?」

「当然かも知れないけど、リーゼが得意じゃない場所なんだからさ……一緒にゲームするなら、家庭用のゲームとかでいいだろ?」


 山下は「確かに」なんて言って頷いている。

 そして二ヤーッと笑って僕に言う。


「流石は旦那くんだねー。奥さんのこと、しっかり心配してあげてるんだ」

「当然だろ。僕はリーゼ第一だからな」

「…………」


 ポカンとしている山下。


「もう少し恥ずかしがってくれると思ってたのに……ちょっと思ってた反応と違う」

「悪かったね。ご希望に添えなくて」


 山下はパッと笑顔に戻り、リーゼの腕を取る。


「じゃあどっかでコーヒーでも飲もっか!」

「ああ。構わないよ」

 

 二人は楽しそうに会話をしながら歩き出す。

 僕はリーゼが取られた気分で少し肩を落とすが、二人の姿を後ろから微笑ましく眺めていた。

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