第4話 カップラーメン
リーゼから彼女の話を色々と聞いた。
どうやら彼女は異世界から来たエルフのようで……
やっぱりエルフなんだな、というのが最初に思ったことだ。
「リーゼがこの世界に来たのはいいけど、どうして今だったの? 別にもっと後でも良かったわけだろ?」
「まぁ、色々と面倒なことが起きてだな……」
大きく嘆息するリーゼ。
そしてベッドから起き上がり、僕の目の前に立つ。
その綺麗さ、そしていい香りに僕はドキッとする。
「それに……そろそろ私より背が高くなった頃だと思ってね」
リーゼは僕の頭を撫でる。
背は僕よりも少し低い。
以前は僕よりも高かったけれど、今は僕の方が高くなっている。
「結構いい男になってるし、安心したよ」
「そ、そうかな?」
「ああ。いい男だ」
リーゼは僕の頭を撫で続ける。
僕は妙に恥ずかしくなり、彼女から目を逸らす。
リーゼはそれを見て気分をよくしたのか、笑みを浮かべっぱなしだ。
「どうした? なんで目を逸らすんだ?」
「だ、だって……」
「だってなんだ?」
分かってるくせに。
彼女は僕で遊ぶようにそう聞いてくる。
だけど楓とは違って不快感は全くない。
リーゼは僕を見下したりしていないからだ。
ただ僕の反応を楽しんでいるだけ。
それに……これから僕のお嫁さんになってくれるんだし。
立ち位置も全然違うのだ。
「……は、恥ずかしいじゃないか。いい男だなんて言われたら」
「ふふ……面白いな、お前は」
頭からスーッと手を下ろしていき、彼女は僕の頬に触れる。
心臓が爆発しそうだ。
彼女の冷たい手に僕の熱い顔。
僕は緊張しているが、リーゼは僕の反応を楽しんでニヤニヤしている。
「可愛い奴。これから死ぬまで可愛がってやるからな」
「お、おてやわらかにお願いします……」
僕はあまりの恥ずかしさにリーゼから離れ、キッチンの方を見る。
「お、お腹空いてない? 食べるものは少しだけどあるよ」
「そうだな。お腹空いたな。何か食べさせてくれるか?」
「う、うん。ちょっと待ってて」
逃げるようにキッチンへ走る僕。
そして戸棚からカップラーメンを取り出し、お湯を沸かし始める。
こんなものしかないのが少し恥ずかしい。
これからはもっとちゃんとしたものを用意しておこう。
だけど僕は料理ができない。
リーゼは……出来るのかな?
「リーゼってさ、料理はできるの?」
「いや、やったことないな。口に入ればなんでも一緒だろ?」
「そんなことないと思うけど?」
コンロに乗せたヤカンを見ながら、僕はリーゼに訊く。
「料理する気は?」
「ない」
でしょうね。
なんだかそんな気がしてましたよ。
まぁ僕は女性に家を守ってくれとか、家事をしてくれとかそんなことを言うつもりはない。
リーゼはいてくれるだけでも嬉しい。
だから家事は僕が頑張ろう。
現在僕は、料理はできない。
しかし僕には信念がある。
『為せば成る為さねば成らぬ何事も』
人間やればできるのだ。
料理ができないというのなら出来るようになればいい。
元々底辺の高校ぐらいしか行けない程度の学力しかなかったが、僕は全力で勉強をし、そこそこの高校に入学することができた。
やればできるのは実証済み。
だから料理もやってできないことはないというわけだ。
と言うことで、今日から僕は料理をしよう。
リーゼが喜んでくれる物を作れるようになろう!
だけど口に入ればなんでも一緒だとか言ってる人だし、もしかしたら意味無い努力になりはしないか?
少し不安になりながら、沸騰したお湯をカップラーメンに注ぐ。
「……この世界で食事をするのは初めてだが……これはなんだ?」
「これはカップラーメンと言って、お湯を注ぐだけで食べられる、素晴らしい物だよ」
「ふーん」
お箸は得意じゃないだろう。
そう考え、僕はリーゼにフォークを手渡す。
三分経ち、リーゼはカップラーメンの蓋を取り、湯気に少しむせていた。
「……熱そうだな」
「熱々だよ。僕の愛ぐらい」
「?」
怪訝そうに僕を見るリーゼ。
僕は少しだけ恥ずかしくなり、カップラーメンの方に視線を落とす。
リーゼと僕が食べようとしているのは、シーフード味。
これならエルフでも食べられるだろう。
いや、エルフが何食べるか知らないけど、食べやすそうでしょ?
「……いただきます」
フォークで麺をすくい、音を立てずに口にするリーゼ。
すると彼女の顔が、パーッと明るいものに変化する。
「……美味しい」
「でしょ? 美味しいでしょ? 僕の愛と同じぐらい熱いラーメン」
彼女は夢中になってラーメンを食す。
僕も彼女の顔を見ながら、ラーメンを食べ始める。
ちょうどいい加減の硬さの麺に、食べやすいマイルドな味。
熱いからふうふうしながら口に含む。
ずるずると音を立てると、リーゼがこちらをジロッと見る。
あ、マナー悪かった?
と思ったが、リーゼも僕の真似をして、ずるずるとラーメンをすすり出した。
彼女は幸せそうに食事をする。
「この世界の食べ物は美味しいんだな……正直、感動したよ」
「だったら僕がもっと美味しい物を作って、リーゼを喜ばせるよ」
「そうか。期待してるよ」
嬉しそうにそう言うリーゼ。
僕はそんな彼女の顔を見て、喜びを爆発させていた。
これなら無駄な努力にならないはずだ。
僕はリーゼを喜ばさるために料理を覚えようと、心の中で強く決心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます