魔法使いミントの憂鬱
日向大地視点
第9話
結城君のサポートを引き受けてから2週間が過ぎた。
僕にはそっけない結城君だけど、佐野君があいだに入ってくれることでちょっとずつ話せるようになってきた。
教えてくれたのは猫を2匹飼ってること。それと話をする中でスイーツが好きなんだってわかった。猫につけた名前がショコラとシフォン。それにお兄さんが焼いてくれるケーキが美味しいって嬉しそうに話してるから。
佐野君によると、お兄さんは黒いスーツが似合う人らしい。毎日スーツを着て、結城君を送ってきたり迎えに来てるっていうけど、お兄さんはなんの仕事をしてるんだろう。いつか教えてくれればいいんだけど。
佐野君といえば佐倉ありす。
佐倉に知れたら怒られそうだけど、佐野君が学校帰りにこっそり教えてくれた。佐倉は同じクラスの
なるほどなって思った。
成績優秀でスポーツ万能、アイドルのような整った顔つき。三上君のお姉さんは同じ学校の3年で生徒会長。佐倉は小学生の時から三上君を想っているらしい。
なんで佐野君が知ってるんだろうと思ったけど、結城君の問いかけで理由を知った。
佐野君は佐倉が好きなんだって。
『打ち明けなくていいのか?』と言う結城君に、『見てるだけでいいんだ』と佐野君は笑った。佐倉ががんばってるのを応援したいって。だけど雅先生が決めたこととはいえ、結城君のサポート絡みで怒らせちゃったし、三上君が佐倉に変な印象を持ってたらどうしよう。佐野君が言うとおり、瞬間湯沸し器みたいな女の子だし。
「……それにしても」
来夢を前に思う。
どうしてミントは洋菓子店を始めたんだろう。魔法使いが洋菓子店の店主だなんて。それにミントとココにしか会わないけど、働いてる人は他にいるのかな。あれ……魔法使いを人って言ってもいいのかな?
「ありがとうございました。また来てくださいね」
弾むようなココの声と、来夢から出てくる買い物客。他に客がいなければミントに聞けるかな。魔法の世界のことと住人達のこと。
来夢に入ると、僕に気づいたココが駆け寄ってきた。
「こんにちは。……君、大地君だよね?」
「そうだよ、なんで?」
「何日か前に大地君にそっくりな男の子が来たの。大地君って声をかけたら『違う』ってそっぽを向かれちゃった」
ペロリと舌をだしたココ。
もしかして、結城君が来夢に来たのかな。
僕と話した時は興味なさそうだったのに。
「ココ、結城く……その男の子、何か買ってった?」
「うん、シフォンケーキと紅茶のケーキだったかな。背が高い男の人が一緒にいて……大地君とは髪型も服装も違うから、違う子だって気づけばよかったんだけどね。今日はひとり? お母様はどうしたの?」
「友達と出かけてるんだ。来夢に行くって言ったらこれ持っててって渡されたんだけど」
紙袋を渡すと、ココはすぐに入っていたものを取りだした。パッチワークのテーブルクロス、母さんが数日かけて仕上げたものだ。
「よかったらお店で使ってくれって」
「ありがとう。パステルカラー……お店の雰囲気にぴったりね。可愛い‼︎」
嬉しそうなココと店内を包む静けさ。
ミントがいないな、どうしたんだろう。
「ココ、ミントは?」
「大地君は知ってるよね、私達が魔法の世界の住人だってこと。だから話せるけど、ミント様は魔法の世界に戻ってるの。1週間前からね」
「じゃあ、今ひとりなの? ケーキとか焼くの大変じゃないの?」
「そっか、大地君はお店の中しか知らないもんね。ここで売ってるものは、魔法の世界の厨房で作ってるの。驚いた? ミント様を中心に、来夢を盛り上げてる魔法使い達がいるって」
「魔法使いが? ……魔法を使わずに?」
僕の反応が面白いのか、ココはクスクスと笑う。
「大地君の反応、みんなが見たら大喜びね。ミント様もミント様を慕うみんなも楽しいことが大好きなの。魔法使いが魔法から離れたことをやる。それはミント様とみんなが、来夢を始める前から続けている遊びなんだ。それでね? 洋菓子店を始めたのは、モカ君のためなんだけど」
「モカの?」
「モカ君、全然喋らないでしょ? モカ君を喜ばせるために思いついたのが美味しくて可愛いお菓子なのよ」
モカが喋らないのはなんでだろう。
何か原因があるのかな。
ミントってば……ふざけてるようでも色々考えてるんだな。
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