世界の悪役令嬢 ~わたくしですわの物語~

帝国妖異対策局

第1話 ネアンデルタール悪役令嬢

注意:音声では「ウホウホ」と言ってるようにしか聞こえないため意訳しております。


―――――――

―――


「【小さいおっぱい】!! 君との婚約を破棄する!」


 部族の長の第一子 【右曲がり】は婚約の宴でわたくし【小さいおっぱい】に高らかに宣言したのですわ。


 【右曲がり】の腰には、あの憎きサピエンスの娘【アイカップ】がそのイヤラシイ巨乳を【右曲がり】に押し付けるようにしがみついておりましたの。


「君がこれまで【アイカップ】に対してどれだけ酷いイジメ行為を行ってきたのか。そのすべてが明らかとなっている!」


 まったく逆ですわ!


 わたくしは心の中で絶叫しました。わたくしたちネアンデルタールが、これまでホモサピエンスにどれだけ酷い目に合わされてきたのか。少しでもおつむがおありでしたら常識のことでしょうに。


 実際、わたくしたちの父の世代からネアンデルタールはサピエンスの悪意によって次々とその生存圏を奪われてきましたの。


 温厚なネアンデルタールは、いつだってサピエンスとの共存を願ってまいりましたわ。なのにそれをいつも裏切ってきたのはサピエンスたちじゃありませんの!


 わたくしだって、父祖の慣例にのっとりサピエンスの娘である【アイカップ】とは仲良くしてきたつもりでしたし、ずっと親友だと信じておりましたのに……。


「それがこの仕打ちですの!?」


 わたくしは、キッと【アイカップ】を睨みつけました。しかし、彼女の顔は勝利に酔いしれており、そのような視線を気にも留めていないようでした。


 わたくしは【右曲がり】に【アイカップ】がわたくしを罠に嵌めた事実を訴えようと、彼の正面に向き合いましたわ。でもその時、その瞬間にアレが見えてしまいましたの。


 彼のアレが……。大きく右にカーブしつつ怒張したアレが腰布を大きく持ち上げているのを。


(あぁ、こいつヤることしか頭にないのですわね)


 わたくしはただちに悟りました。こんなエロ汁で脳内が満たされたアホにいくら真実を訴えたところで聞き入れやしないだろうと。


 それなら!


 わたくしは周囲に友の姿を探します。部族における5人の貴公子たち。【右曲がり】の親友であり、わたくしにとっても親友である頼もしいイケメンたちですわ。彼らならきっとわたくしの言い分を聞き入れて、【右曲がり】を説得してくれるはず……


 わたくしが居並ぶ5人の貴公子を認めたとき、彼らは【アイカップ】の肢体に目を釘付けにして、それぞれの腰布にテントを張っておりました。


「ダメだこりゃ」


 わたくしは思わず、わたくしの死後、遥か未来でよく使われることになるような気がする言葉をつぶやいてしまいました。


 このままここに留まっていれば、どんな仕打ちを受けることか。きっと、わたくしの死後、遥か未来で生まれるエロ同人誌みたいに酷いことをされてしまうのですわ。


 もうこんなところにいたくないですわ。


 ふぃぃぃぃぃぃ!


 わたくしが口笛を吹きますと森の奥から巨大なサーベルタイガーが現れ、わたくしの目の前に駆け寄ってきました。


「「「うわぁぁぁぁ! 森の悪魔だぁぁぁ!」」」


 たちまち宴はパニックに陥りましたわ。【右曲がり】や【アイカップ】、そして5つのテントたちも恐怖に凍り付いてその場で震えるばかりになりましたの。


 わたくしは優雅にサーベルタイガーに跨ると、周囲を見下ろしてお別れのご挨拶をさせていただきました。


「【右曲がり】! こちらこそ婚約を破棄させていただきますわ! せいぜい【アイカップ】を大切にしてあげてくださいな」


「あ、当たり前だ! 我が妻になる女性ひとなのだからな!」


 サーベルタイガーにガクブルしながらも、頑張って言い返してきたところだけは認めてあげますわ。それくらいは根性見せていただかないと、元婚約者としては目も当てられませんもの。


「さようなら【右曲がり】! 先に【アイカップ】のご懐妊のお祝いを言わせていただきますわ。そこの5人を含めどなたの御子かは存じ上げませんけれど!」


「な、なにぃ!」


 【右曲がり】がびっくりして【アイカップ】に目を合わせようとしましたら、


 【アイカップ】は目を逸らしましたわ。


 【右曲がり】が続いて5人のテントに目を合わせようとしましたら、


 5人も目を逸らしましたの。


「【アイカップ】! わたくしを裏切らなければ黙っていて差し上げましたのに!」


「で、でたらめよ! し、信じないで! あんな貧乳の言葉を信じたりしないで!」


「お、おう……」


 【右曲がり】は頑張って彼女に同意しましたの。


「あーん! あんあん! やっぱりわたすぃ右よりも左を責められる方が気持ちイイのー。あーん! あんあーん!」


 わたくしがわざとらしく喘ぎ声の真似事をすると、【右曲がり】は|5人の中のひとり【左曲がり】にサッと視線を向けましたの。


 【左曲がり】はサッと視線を逸らしましたわ。


「お、おい……」


「わたくし、学園寮では【アイカップ】と同じ洞窟でしたのよ。何度も夜中に聞かされた男女の睦事でしたら、あと4つほどバリエーションがございますわ」


「う、嘘だ……」


「ちなみに婚約にあたっては、わたくしは【右曲がり】のお母さまから【乙女チェック】を受けていますが……」


 わたくしは【アイカップ】を見つめながら言いました。


「あなたは【乙女チェック】をパスできるのかしら?」


 部族では血の命脈を維持するために、族長やその子息の妻となるものについては処女性が厳しく求められるのですわ。ネアンデルタールでは常識なのですが、万年発情期のサピエンス女にとってはそうではなかったようですわね。


「【乙女チェック】? なにそれ……」


 突然知らされた見知らぬ慣習に驚く【アイカップ】と、婚約者が【乙女チェック】を知らないことに驚いている【右曲がり】の姿がとてもおまぬけで、


 わたくしはせいせいしましたわ。そのおかげで、もはやここにいる連中にも、この部族にも何の未練もなくなりましたの。


 わたくしは、サーベルタイガーに乗って森の中へと飛び込みましたの。その直前、これから苦悩することになるであろう【右曲がり】と【アイカップ】に、つい優しい言葉を掛けてしまいましたわ。


「せいぜい! お幸せになりなさいな! 【右曲がり】! 男の価値は器の大きさでしてよ!」


 一時とは言え【右曲がり】は婚約者でしたし、【アイカップ】はわたくしの思い込みだったとはいえ親友でしたもの、少しは情が残っていたのでしょうね。甘いですかしら? やはりわたくしにはネアンデルタールの血が流れているのですわ。


 その後、【右曲がり】と【アイカップ】、そして五人の貴公子がどうなったのかは存じ上げません。まったく興味も関心もありませんでしたから。


 わたくしですか?


 わたくしは、その後サーベルタイガーと共に旅に出ましたの。たくさんの冒険の末に素敵な伴侶を得て、生涯の最後には52人の子供と孫に看取られて逝きましたわ。


 あれからどれくらいの年月が過ぎたのかしら。


 もしかしたら、あなたも……


 わたくしの子孫かもしれませんわね!

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