宇宙艦隊の司令官から剣と魔法のファンタジー世界の冒険者に転職しました 外伝

地水火風

第1話 ロブ1

前書き

本編にちょっとだけ出てきたロブの昔話です。本編を39話まで読んで頂いた後の方が分かりやすいかもしれません。本当は1話完結のSSを書くつもりがいつの間にかちょっと長くなってしまいました。今回は全6話です。本日中に全話投稿しますので、もし本編をまだ読まれてないのでしたら、本編を読んで頂けたらと思います。一応本編のアドレスはhttps://kakuyomu.jp/works/16816452218556027201です。よろしくお願いします。


 大陸南北戦争の傷がまだ癒えない頃、ジクスの孤児院に一人の男の子が捨てられていた。滅亡の危機は去ったものの、リューミナ王国は逆侵攻のさなかであり、孤児と言うのは珍しいものでもなかった。

 成長するにしたがって、その男の子は恵まれた資質を持っていたと思われた。同年代では桁外れた魔力、戦士と比べても見劣りしない、いやそれ以上の恵まれた体格、そして盗賊職にも勝るとも劣らぬ器用さ。

 冒険者ギルドに登録したとき少年は少なくともBランク、もしかしたらAランクまで昇り詰めるかも知れないと思わせる期待の星だった。


 冒険者ギルドに登録してから5年、その少年、名前はロブと言う、はDランクだった。20歳そこそこでDランクと言うのは珍しいものではない。寧ろ平均から言ったら高い方に入るだろう。だが、同じ時期に登録した仲の良かった仲間は全員Cランクになっていた。冒険者ギルドに登録したときには圧倒的にロブの方が能力的に優れていたにもかかわらずである。

 ロブは確かに基本的な才能は高かった。だが、魔法はなぜか初級の魔法しか使えなかった、体格には恵まれていたが、魔力で力や速さを強化することはできなかった。器用ではあったが、夜目が利く、罠に気付く、こっそりと動く、などの才能はなかった。

 Dランクまではともかく、Cランクに上がるには、中級魔法が使えるか、魔力を使って身体能力を強化出来ることが最低条件だった。つまり、ロブは今は良いとしても将来性がないのである。

 ある程度の事は何でも出来るが、逆にある程度以上の事は何も出来ない。それがロブであった。普通ならば、パーティーから追い出されていてもおかしくはない。だが他の仲間はパーティー結成時と同じようにロブをパーティーリーダとして扱っていた。


 ロブが1枚の依頼書をボードから剥がし、受付へと持って行く。内容はオーガ1体の討伐だ。受付を見渡すとロブと同じ孤児院出身で、仲の良いララが今日は居ない。心持気が重くなるが、仕方なく別の受付嬢のところに並ぶ。

 自分の順番が来ると受付嬢に依頼書を渡し、冒険者ギルドカードを見せる。


「すみませんこの依頼はCランクパーティ用の・・・。失礼しました”緋色の剣”の皆様で受けるのですね。では問題ありません。詳細はこちらの方になります」


 そう言って受付嬢は詳細が書かれた紙を渡す。何時もながら棘のある対応だ。冒険者ギルドの受付嬢と言うのは、女性が成る職業の中でも花形と言われる職業である。この世界の女性の適齢期は短い。もしできるのならAランク、無理でもBランク、最低でもCランクの冒険者と結婚して寿退社をするのが、冒険者ギルドの受付嬢の花道だった。その意味で最初は期待されたものの絶対にCランクに上がれないロブは、相手として対象外だった。更に将来性のある”緋色の剣”のリーダーとしてふるまっているのも受付嬢には嫌われる一因になっていた。

 なので個人の冒険者カードではなく、パーティーの冒険者カードを見せたにもかかわらず、リーダの冒険者ランクがDと言う事でさっきのような嫌みが言われるのである。Cランクだったら真っ先にシルバーの線が引かれていなければならない、冒険者カードの一番上だけがブロンズと言うのは、まずない事と言っていいだろう。だが、毎回のように嫌味を言われるのは、慣れたと言っても気持ちの良いものではなかった。


「なんだ、また嫌味でも言われたのか?」


 酒場で待っていた仲間のところに戻ると、仲間の一人がそう声を掛けてくる。両手剣を椅子に立てかけいかにも戦士と言った体格の良い男だ。名前をアゴットと言う。パーティーの前衛だった。


「受付嬢も見る目がないね。ランクだけじゃわからない所もあるのにね」


 そう言うのはアゴットよりやや細身ながら、鍛えた体を持つ戦士だった。横に片手剣と盾をおいている。名前をパークと言う。こちらもパーティーの前衛だ。


「まあ、仕方がありません。彼女たちも必死なのでしょう」


 そう言うのは厚手の神官服に身を包んだ神聖魔法の使い手の僧侶だ。中肉中背の男だった。名前をケルンと言う。


「しかし、自分たちのパーティーリーダーが馬鹿にされるのは不愉快だねぇ。次からはララがいないときは私が行こうかい?」


 最後に声を掛けるのは、山高帽に、ローブといかにも魔法使いらしい魔法使いだった。名前をリストと言う。


 この4人にロブを加えたのがCランクパーティーの”緋色の剣”だった。シルバーランクに最も近く、最も遠いと言われるパーティーである。それは、ロブさえ抜ければシルバーランクになれるが、それをロブ以外の全員が拒んでいるからだった。


「いや、多少不愉快にはなるが、まあ仕方の無い事だ。そんなことに気を使ってくれるなら、せめてだれかリーダを代わってもらいたいんだがな」


 そうロブは言う。Cランクのパーティーに1人だけDランクがいると言うのは珍しいが、奇異の目で見られるほどではない。だがその1人だけDランクのものがリーダーを務めるのは例がなかった。

 しかし、そう言われた4人の男たちは目を見合わせ、全員が首を振る。


「いや、無理だな。ロブ以外の誰がリーダーになっても、今まで通りの働きができるとは思えねえ」


 そうアゴットが言うと、他の3人も頷く。ロブはため息をつく。


「そんな事は無いと思うんだがな。お前たちはもうCランクなんだぞ」


 Cランクの冒険者と言えば、才能あふれる若手か、熟練の冒険者がなるクラスだ。”緋色の剣”の場合は才能あふれる若手の方に入るだろう。冒険者としてCランクに到達できないまま引退する者も少なくない。


「私としては、冒険者ギルドのランク制度に問題があると思うがねぇ。実際1対1でロブに勝てる奴はこのパーティーにはいないじゃないか」


 そうリストは言う。実際ロブは強かった。確かに力ではアゴットに、スピードではパークに劣るが、それを剣技でカバーし、なおかつ有り余る魔力を生かして、高速無詠唱で魔法を飛ばし隙を作るのが上手かった。低レベルの魔法とは言え、片方の足の地面だけいきなり30センチほど持ち上がったり、逆に穴が空いたり、踏み込もうとしたところに小さいとはいえ炎の塊が飛んで来たら、どうしても隙が生まれてしまう。勿論Cランクである以上、並の魔法使いにそんなことをされても、アゴットとパークは勝つ自信がある。だが、接近戦で実力が伯仲している相手にそんなことをされてはたまらなかった。

 ケルンとリストも同じ思いだった。接近戦は言うに及ばず、魔法の打ち合いでも、ロブの高い魔力を生かした、高速無詠唱の攻撃の物量で押し切られてしまうのだ。せめて、高レベルの魔法を高速無詠唱で唱えれるようになるまで、ロブにはかなわないと思っている。最もケルンは戦闘もするとはいえ、基本は回復役なので、そこまで戦闘に対する執着心は無かったが、それでも、自分がロブより優れているとは思わなかった。

 何よりも4人が全員思っていることは、ロブは見かけによらず頭が良かった。まあ、こんなことを本人に言ったら怒るだろうが。


 ロブは仲間たちを見てもう一度ため息をつくと、依頼内容を説明し始めた。


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