鉄錆味の拾いモノ

@TEKKAMEN

第1話 

 その日、仕事の帰りに書店へ寄った。久しぶりのことだった。例えば仕事の最中に見かけるアニメのポスターが大きく貼ってあったからか。ここのところ四六時中耳に入ってくるアニメソングが聞こえてきたからか。それとも、見慣れたアイドルの顔が雑誌コーナーから微笑みを平面的に投げかけてきたからか。いやそれは無いな。うん、ない。別にあの顔タイプじゃないし。

 とにかく特別、読書の趣味はないのだけど、私の足は何の気なしにそこへ向いていた。

 自宅への帰り道、量販店の一角にあるそこは以前寄ったときとはあまり変わりのないように見えた。

 これといって目的もなく寄ったものだから目当ての本も特になく、そもそも読書の趣味もないのだからこういった場で本以外に何が売っているのかも分からない。だから自然、私のすることといえば陳列された本を眺めながらぶらぶらと歩くだけだった。

 そういえば、傘を持ったまま書店に入って知人に叱られたことがあったっけ。気の強くない彼のこと、あれは怒ったと言うよりも困ったといった方が近かったのかもしれないけど。それでも彼に叱られたのは後にも先にもあの時だけだった。


 ふと、新刊の表示が小さく描かれたポップが目に留まった。イマドキなタッチ(そもそもイマドキの流行りについて詳しくは知らないのだけど)で表紙にイラストの描かれたB6サイズのソフトカバー。

 一冊手に取って著者の名前を見たけども、太宰何某とか夏目誰某とかならともかく、読書好きでもない私には見当もつかない。そもそも名前からしてまず普通じゃない。ペンネームといったっけ。これじゃあもしも書いた人が実際の知人でも分かりはしない。

 だからなんとなく。その行動を取ったのは本当になんとなくで。ページをめくってみると、カバーの折り返しには簡単な粗筋が書いてあった。


 ーーーーーーくすりと

それに目を通した後に、どこからか私に似た声が微笑む音が聞こえた気がした。

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