女の子は、ダメですか。

ねこかぶり

第1話 顔が良い奴は必ず性格ブッサイクだな

沢山の人間と電車に揺られながら、学校に行く。

みんな同じ狭い空間にいるのに、あまりお互いの事を気にせず電車に揺られているのが、少し面白いと思った。

今日から私は高校生だ。

憧れの咲人先輩がヒカリ高校に入学したと小耳に挟み、夢も何も無い私は咲人先輩だけをみて入学してきた。

朝から電車で行くだなんて、かなり遠いなぁ…

そう少しどんよりした気持ちになりながらも、咲人先輩とまた同じ学校に通えることがとても嬉しく、すぐに気持ちが舞い上がる。

「次は〇〇駅〜〇〇駅〜…」

次は私が降りる駅だ。

少し汚い電車の座席に乗せた鞄からICカードを取り出し、座席からすぐに離れて扉の近くに行った。

プシュー…

電車が徐々に止まり、扉が空いた。

足を踏み出そうとした途端、後ろに居た同じ制服を着ている女の子が、私をグッと力強く押し退けた。

唐突に押されびっくりした私は、手に持っていたICカードをその場に落とした。

「ちょっと……落としたんですけど…。」

少し大きめの声でその女の子に言うと、こちらをチラッと見たかと思えば

「それくらい、自分で拾いな?」

私をゴミでも見ているかのような視線で言い放った。

正直、カチンと来た。

その女の子を呼び止めようとすると、流れるプールの時のように大勢の人が電車を出ていき、呼び止めることは不可能だった。

長い艶がある黒髪で、目は切れ長でスカートは短め。

正直、腹が立つけど顔がいいほうだと思った。

「顔がいい奴は必ず性格ブッサイクだな…」

ボソッと言うと隣のOLに変な目で見られてしまった。

チラッと時間を見ると、8:15。

「あのこのせいで時間がやばい…!」

私はダッシュで学校に向かった。


クラスをすぐに確認し、慌てて自分のクラスへと走る。

ガラガラッ

教室にはもう、ほぼ全員が律儀に椅子へと座り、近くの席同士で話していた。

勢いよくドアを開けたせいか、教室が少ししんと静まり返り、私のことをチラッと見るとまた教室がざわめき経つ。

私の席は、どうやら1番後ろの窓際らしかった。

渡辺という苗字だと、高確率で窓際の1番後ろの席だから嬉しい。

早足で自分の席へと移動する。

鞄を机の横に引っ掛け、スカートを太ももの下に折りたたんで座る。

全速力で走ったからか、まだ息が整っていない。

クラスメイトがどんな人なのか気になり、周りを見渡す。

すると見覚えのある長い黒髪の女の子が視界に飛び込んできた。

イヤホンを耳に付け、音楽を聞いている。

髪を耳にかける仕草は少し色っぽかった。

そうじゃなくて、もしかしてあの子って。電車で私を押してきた子?

そう思い、少し精神的に不安定になる。明らかに嫌な顔をしていたら、急に高めの、大きな声が聞こえた。

「ねーね!!名前なんて言うの?!」

びっくりして、あの女の子から目を逸らし、目を声の聞こえる方にやると、目がくりくりとした茶髪の女の子が話しかけてきた。リスみたいだ。

「彩羽だよ、そっちは?」

私の名前を言うと、目をキラキラと輝かせた。

「彩羽?!ちょー可愛いね!じゃあ、いっちゃんだ!

私の名前はね、柚夏って言うんだ〜!ゆっちゃんって呼んで!」

柚夏と名乗る、ゆっちゃんは誰とでも仲良くなれそうな性格してるなと思った。

とても可愛い顔をしてるし、なにより小動物っぽく、人懐っこい。

「ゆっちゃんね、これからよろしくね。」

私がニコッとすると、ゆっちゃんはとても嬉しそうな顔をした。

良かった。友達になれそうだと思った。

正直、友達作りは最初の席で決まるような気がしている。

最初に良い感じの子と仲良くなれなかったら、大体ぼっち確定だ。

でも、今回はゆっちゃんとかなり気が合いそうで、少し気持ちが和らいだ。

ゆっちゃんと話していた時の余韻に浸っていると、ガラガラと勢いよく扉が開いた。

遅刻か?と思っていると、

「どうも。今日から君たちの担任の、角田裕二です。よろしくね。」

どうやら担任の先生のようだった。

容姿は爽やかなイメージで、男女共に人気がありそうな見た目をしていた。

爽やかだけど、どこかクールで、冷たい印象があると何となく思った。

何となくゆっちゃんに目をやると、角田先生に釘付けのようだった。

「じゃあ、初日だしとりあえずは自己紹介をしようか。」

クラス全体が、えー?と少しざわめき経つ。もう既に、クラスが纏まっているような気がした。

私はあまり目立ちたくないタイプで、自己紹介は正直苦手だ。それでも、やらなければいけない。

考え事をしていると、半分位まで進んでいた。

聞かなきゃ。と思い耳を凝らして聞くと、聞き覚えがある、芯があり、冷たい声色の女の子が話した。

「初めまして。

蓮水凛です。

読書が好きです。よろしく。」

蓮水凛。彼女の名前だった。

妙にオーラが違くて、周りの男子が釘付けになるほどの美人だった。

男子達が少しざわめき、俺、あの子狙うわ〜など冗談交じりでパリピな男子達が言っていた。

凛にそれが届いたのか、その男子達をチラッと軽蔑するような目で見た後に、自分の椅子に座った。

こえー、けどかわい〜と言っていて、本当に馬鹿だと心底思った。

少しぼーっとしていると、ゆっちゃんの番になっていた。

「初めまして〜!

八色柚夏です!

好きなことは…バレーです!

いいクラスにしたいなぁ、よろしくね!」

高めで、ハキハキとした声がクラスに響いた。

男子たちは、あの子も可愛いなど容姿についてずっと駄弁っていた。

私は自分の容姿にそこまで自信が無い。何か言われるのではないかと少しどんよりしていると、

「いっちゃん、がんばっ!」

ゆっちゃんが元気付けてくれた。私は椅子から立ち、息を吸い込み、下唇をグッと噛む。

みんな私の事を見ている。凛もチラッとこちらを見た。緊張して、少し視界がぼやっとした。

「初めまして…!

渡辺彩羽です。

好きなことは食べる事です。

1年間よろしくお願いします!」

勢いで言うと、気持ちがすっと楽になり、ふぅ…とため息が出た。

すると、男子達がこちらをチラチラ見ながら、何かボソボソ言っている様子だった。

もしかして容姿について言われているのかなと、不安になる。

すると突然凛が、

「さっきから気になってたけど、人の容姿についてとやかく言うの、キモイよ。」

少し大きな声でガツンと男子に言った。

少しだけ、私と目が合った気がして、ドキッとする。

男子達は、少しバツが悪そうにして、

「すまんって…」

と苦笑いをする。

すると角田先生が、

「と、とりあえず皆自己紹介終わったということで、休み時間にしようか。」

苦笑いをしながら言うと、クラスがすぐにざわめいた。

「いっちゃん!角田先生、かっこよくない?」

ゆっちゃんがキラキラと目を輝かせ、宝石でも見ているかのような顔で角田先生に目をやった。

「そうだね〜、確かに爽やかでかっこいいかも。

ゆっちゃんは、ああいうのがタイプ?」

私が口を開くと、いっちゃんは角田先生から目を逸らし、私の目をじっと見ながら話を聞いた。

やはりモテるなこの子。となんとなく思った。

「タイプかもなぁ〜。

爽やかな男性、私タイプなんだよねっ」

にこやかで、少しうっとりとした表情をする。

ころころと表情が変わるから、見ていて面白いなと思った。

「何となく思ったんだけどさ、いっちゃん、好きな子いるでしょ?」

ドキッとした。

なぜバレたのだろう。

言おうか言わまいか、悩んでいると

「その顔はやっぱりいるなぁ?

大丈夫!私相談のるし。それと、そんなに口軽い女じゃないよ?」

なんとなく、ゆっちゃんは恋愛マスターっぽいなと思った。

ゆっちゃんの事はまだあまり知らないけど、意外と口も硬そうだなと思った。何となく、常識人っぽい。

「バレちゃったか。

実はこの高校に入学した理由が、1個上の憧れてる先輩が入学したからなんだよね。

特に夢もないからさ。」

苦笑いしながら話す。

入学した理由が男だなんて、笑われるかな。と言ったすぐに不安になった。

「そうなの!?

いっちゃん行動力すごっ!

好きな人いるからその高校入学するって、すごっ!」

また輝かせた目をして、私にグッと近づいた。

本当にこの子はいい子なんだと、目に見えてわかった。

「そうだ、さっき凛ちゃんって子、凄かったね〜。

私も男子達、少し失礼だなと思ってたんだよ。

あんな大きな声で乙女の容姿について話すなしぃ〜!」

ゆっちゃんが足でどかどかと床を踏む。

私も正直、びっくりした。

偏見だけど、男子に対して色目使ってそうだし、あんなにガツンと言うとは。

「そうだね〜、クールっぽいのかもね。

そういえば今日、あの凛って子に電車で押されたんだよね。

ICカード落としたら、それくらい自分で拾えって。」

思い出したらまたイライラしてきた。

しかも、その人が私と同じクラスとかどんな確率だよ…

凛をじっと見ながら少し嫌な顔をすると、私の視線に気付いたのか、チラッとこちらを見た。

目を合わせてしまった。

見てたと思われたら最悪だ。まぁ、見てたんだけども。

「えぇ!?そんなことする子なのぉ!?

ちょっと意外かも。

あんな風に男子をガツンと言ってたからさ、かっこいい感じかなーって。

結構、冷たい感じなんだぁ…」

ゆっちゃんがどんよりとした顔になる。

やっぱり、ころころと表情が変わって面白い。見ていて飽きないとは、こういうことなんだと思った。

「そうだ、ゆっちゃんは部活何に入る?」

私が話題を振ると、ゆっちゃんはすぐに目を輝かせた。

「私は元々バレー一筋だったから、バレー部に入るよ!

バレーめっちゃ好きなんだぁ!

あ、いっちゃんはどうするの?」

ゆっちゃんが首を傾げて、私に問う。

その仕草は、正直あざと可愛いなと思った。

「私は…どうしよう。

私、あんまり決めてないな〜。

とりあえずゆっちゃんがどこに入るのか気になって。」

すると、ゆっちゃんが、そうだ!と手を叩いた。

唐突に大きな声を出すから、ビックリして目を丸くすると、

「いい案があるんだけどさ!

ここ、部活見学とかできるから、いっちゃんの憧れの先輩が入部してる所見に行ってみようよ!

どこでもいいなら、行く価値あるくない?

私もいっちゃんが憧れの先輩、見てみたいしさ〜

いっちゃんにお似合いで、悪い人じゃないか見極める!!!」

たしかに。名案だと思った。

そこそこ運動もできる方だし、仮に運動部でも大丈夫かな。と思った。

「それは名案だね、今日もう部活見学出来るみたいだし、行こうかな。

いっちゃんも来るよね?」

いっちゃんを誘うと、うんうん、と勢いよく首を縦に振った。

「もちろん!

楽しみだなぁ…」

いっちゃんがわくわくしているのがよく分かった。

凛はどの部活に入るのかな、とふと思った。

運動とか、何でも出来そうだし、少し羨ましいと思った。

なるべく関わりたくないから、同じ部活じゃないといいな、と心から願った。

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