第40話 ここがええのんか?(どうか永遠に)
「僕、これで先輩の共犯者ですね。ずっと、ずっとです」
「……口だけでも嬉しいよ」
今も尚、外崎をライバル視していた。僕なら先輩と一緒に、歩くべき道を外れ、共に堕ちていくことができる、と当てつけをしているようだった。
「口だけじゃないです。僕はホントにずっと一緒に、檻の中にいます」
「檻?」
「ええ、先輩が作った檻です」
先輩は「なるほど。檻、か」と納得したように繰り返した。
「私、甘えちゃうよ。ずっと檻に閉じ込めちゃう。それでもいいの? ずっとずっと」
「……」
「あ、黙った。やーい無責任」
「うるさいんですよ、ほれ、ここがええのんか?」
僕はカサブタをいじくっておどける。先輩の涙を拭うことができない自分を責めながら。
……そうだ。明日なんか、訪れなければいい。今日の始まりに戻ってしまえばいい。
先輩のカサブタをはがし続けたい。
裸にデカいTシャツ一枚。どんとこい。
先輩と二人で同じ布団で眠って、明日がおとずれそうになったら、カサブタをはがす。
そしたら悪魔が時間を戻してくれる。
で、また夢を見て、あぁ、いつになったら明日になるんだろうね、と囚われた日々の中で思えたらいい。
でもタイムリープすると部屋着が変わらないな。せいぜい、悪魔が部屋着にバリエーションでもつけてくれればいいけど。そんときは、ふわふわのもこもこをよろしく。
「ちょっと、もっと優しく……」
「いいじゃないですか。どうせ時間が戻るんだから、傷も戻ります」
先輩は「無責任」と哀しく笑った。
モラトリアムは蛹のようだ。蝶になり、飛び立つ準備をしている。
だけど、将来のない僕らの蛹の中は、空っぽなんだ。
僕はべたつく指先を擦り合わせる。指先の匂いを嗅いだ。
先輩の血とリンパ液の混ざった、粘ついて鼻の奥に残る匂い。
それは郷愁に近いものがある。
もう何年、転んでいないだろう?
全速力で走ることを忘れた僕には、幼い頃のように膝をすりむくことさえできない。
桜を怖れる感覚も思い出せない。
もちろん、あの頃に戻りたいなんて、僕は言わない。
だけど、今だけはそのにおいに満たされて眠っていたかった。
努力から目を背け、同じ泥沼にはまっていく。好きになった人のため未来を捨て、一蓮托生、生涯を檻の中で過ごす。
そんな覚悟、できるわけがない。
でも、もし。本当に明日が訪れないなら。
この一日を繰り返すなら……身の丈に合わない力強い言葉だってかけられる。
無責任でもいい。
今だけは、先輩の共犯者でいよう。
【了】
僕らは共犯者 肯界隈 @k3956ui
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