第33話 ふたりは共犯者
「わかりましたよ。それでどうしたんですか」
僕は先輩に尋ねた。
「だから、外崎と二人で逃げてきたの」
「駆け落ちですか?」
「嘘みたいでしょ」
「ええ。今時映画でもやりませんよ」
「嘘みたいな人生が、私にはぴったりだと思ってたの。『素敵な自意識過剰』を持った私にはね」
皮肉。この話から、先輩がいかに自己防衛的に演技をして振舞っていたのか、痛感する。
だが、それはもう治らないだろう。先輩の心をそこまでこじ開けることはできない。
「それでね、この教会に来たの。前に撮影で使って、気に入ってて」
「……」
何か言え、僕。ショックを受けてるなんて思われたくない。
「結婚式、やったんだ」
「!」
結婚、というフレーズは、やはりずしりと来る。外崎は過去の人間だって、言ってたのにもかかわらず。
「もちろん、インチキな結婚式。神父も誰もいない。ただ、二人でそっとキスをしただけ」
「……」
「私、ハイになってたのかな。外崎に言ったの。現実世界の日にちなんか関係ない、閉じたこの時間――タイムリープみたいな時間――をずっと過ごそうって」
「その人は、なんて」
「『周囲の人間に迷惑をかける』って」
つまらない言葉。まるで僕みたいな。
そうだ。僕は結局、その外崎かそれ以下の普通の人間に過ぎない。
「私は、だからいいんじゃん、って笑った。背徳的な、自分本位な逃避を共有するから、心の芯から繋がれるんだよって」
「共犯?」
僕が尋ねると先輩は笑って、「大げさだけど、そういう感じかな」と頷いた。
「でね、言われちゃったの。『気がすんだだろ。現実に帰ろう』って」
「気がすんだって、なんですか」
ただ、先輩の味方をしたいんじゃない。彼女の子供じみている願いに、強く共感した。
だからこそ、子ども扱いをする外崎の「正しい」言葉にひどく腹が立った。
「どうして樹くんが怒るの?」
「その言い方じゃ、先輩をあしらってるみたいじゃないですか」
「あしらわれたんじゃないよ。その時点で、失望されたんだ。捨てられたの。その後ね、音信不通」
二人は、永遠の愛を誓い合おうとしたんじゃない。先輩は外崎にモラトリアムの共有を強制した。
「モラトリアムの檻」に閉じ込めようとしたんだ。
共犯者の二人は、檻に入った。
外崎はそこから逃げた。
当然だ。
後で振り返れば「若気の至りだった」と思うのがわかりきっている駆け落ちで、人生をフイにするのは嫌に決まっている。
「共犯」から逃げ、その「罪」から足を洗ったのだ。
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