第20話 あとは若いものだけで
「私、んぐ」
先輩が喋りだしたのを制止する。
鞘師に先輩の部屋着を教えたくないと、嫉妬してしまったのだ。
「んー……。言っちゃダメってこと?」
先輩は一瞬、僕を窺うように流し目をした。
「いや、僕はまぁ」
「言わない方がいいなら、秘密にするね」
わかっている。僕は先輩との距離感を測りかねている。
さっきの出来事だけで、距離が詰まったと考えてしまっていいのだろうか、と。
「なんで樹に訊くんだよぉぉ! いちゃついてんじゃねぇよ!」
「なんだよ、情緒不安定かよ」
「先輩が甘いから、こいつ調子に乗ってんですよ! クソ、真の嫌がらせっていうものをおれが見せてやるよ!」
鞘師がヤケクソ気味に、乱暴にタブレット端末を取り出す。
さっきの映像を流す気か!?
「おい、やめろ!」
「へ、へへ、かわいいね樹ちゃん、はぁはぁ……」
鞘師がわざとらしく涎をぬぐう仕草をして、タブレットを操作する。
「……あ」
水を打ったような先輩の声が響いた。
「どうしたんですか?」
「車に忘れ物してきた」と先輩は立ちあがった。「まま、後は若いものだけで盛り上がってなさい。三人とも、ちゃんとほぐしなよ?」
「どんな盛り上がりを期待してんですか」僕は呆れて嘆息する。
「先輩」トラビスが低音で呟く。「男同士でやっても、童貞脱出っていいますか?」
「えー……どーかなぁ?」
「いいから早くいってきてくださいよ! 上映会、やりますよ! やったな樹、いよいよスクリーンデビューか!」
「ふざけんな!」
「先輩ってば、ボーっとしてないで」
「はいはい、行ってきまーす」
先輩は跳ねるように走り、駐車場へと消えた。
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