第12話 DT喰いの独白
「樹くん?」
先輩の声で、どうにか我にかえる。
「えーっと、元々何の話でしたっけ? そうだ、教会がどうしたんですか?」
今度は、自分の頭の中の話を逸らす。いつもそうだ。僕は何かあると、話を逸らす。
「ん。あの場所は、私にとって特別なの。もう来ないかなって、思ってたけどね」
そういえば、合宿地をここに決めたのは先輩だった。車を出してもらえれば交通費が浮くからお任せ、としか考えていなかったが、先輩にとっては特別な場所なんだろう。
「なにか想い出があるんですか?」
「まーね。気になる?」
「どうですかね」
気になるよ。気になるけどそういうのでガッツくのって、カッコ悪いし馬鹿みたいだ。
「そうだなぁ、話してもいいよ」
「えっ」
「あ、誰にでもほいほい話すってわけじゃないからね?」
誰とでもいいってわけじゃないよ。誰とでもいいってわけじゃないよ。
頭の中で、都合よくねじ曲がった言葉がリフレインする。
誰にでもいいってわけじゃない。
と、いうことは?
「樹くんは好みの童貞くんだから」
こちらの動揺を悟ってか、先輩ははぐらかすように言った。
でも、いつもと何か違う、何かしらの憂いがある微笑みだった。
「なーんて」
寂しい表情。童貞喰いというイメージからはかけ離れている。
そんな顔を見ているうちに、彼女に童貞を奪ってもらおうとか、そんな気が一瞬だけ失せてしまった。
……彼女のセンチメンタルに引きずられているのだろうか?
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