第5話 DT脱出大作戦
傍で話を聞いていても、魂胆はミエミエ。
鞘師は、下らない「男の尊厳」とやらを見せるため。
トラビスは、女性不信に陥った八つ当たりをするため。
作戦はこうだ。いや、これは作戦とも呼べない、作戦未満の作戦である……。
1.ロッジに到着。今日は飲み会。潰れるまで飲むぞ。雑魚寝をする中、一人を残して部屋からいなくなる。
2.残された一人、密先輩に襲われる。
3.それにのったフリをして、直前で毅然とした態度でそれをはねのける。
4.童貞ごときに振られた密先輩はプライドがズタズタに。
5.大成功!(?)
そんな穴だらけの作戦。
「それさ、さすがに密先輩に悪くない? いいの?」僕は思わず口を挟む。
「樹は密先輩につくのか? しょせん女か?」
「そうだぞ、板山。よく考えろ。男と女で何がそこまで違うんだ?」目が血走っている。トラビスの圧力がハンパじゃない。
どう違うというか、違いしかないだろ。女に振られたショックで相当おかしくなっているらしい。
「むしろ男とする方が、女とやるよりもすごい人生経験じゃないか? 男も女も人間には違いない。とりあえず粘膜ならどこも似たようなものだ」
「いや、おれはそこまで言ってねーけど……」鞘師はあきれ顔だが、トラビスはその後も言葉を重ねていた。
今は頭に入らない。それどころじゃないんだ。
友だちと、童貞脱出。
そのふたつを比べ、迷っていた。
これから卒業まであと最低三年かかる。この二人との関係は、何かと大事だ。
あーくそ、留年なんかしたばっかりに、こんなに迷うことに。
今後、ノート見せてもらうこともあるだろう。過去問が必要になることだってある。卒論だって手伝ってもらうかも。
下衆な考えだ、友だちを利用するのか、なんて考えだってもちろんなくはない。でも、大学の人付き合いで、その要素を無視することはできないのだ。
僕が密先輩を想う?気持ちと、この腐った友人二人との関係を穏便にすることを天秤にかけたとき。
果たして、どっちに針はふれるだろう?
「わかった。僕も手伝おう」
僕はゆっくりと手を挙げた。
「おぉぉぉ! わかってくれたか、樹!」
鞘師の熱い抱擁。トラビスが僕に握手を求める。大きなタコの目立つ手を握り返した。
わかってくれたか?
は、そんなもん、わかるはずがない。
はかりは一瞬つり合った。
だけど、密先輩の方に「童貞脱出」のおもりを重ねたら?
天秤の真ん中の目盛が振りきれてぶっ壊れるくらい、先輩を乗せた皿が下がった。
作戦に乗ったフリをして……。二人を出し抜き、彼女と結ばれる。
「絶対裏切るなよ、樹。おれらは、共犯者だ」と鞘師は高々と宣言する。
「共犯?」トラビスは首を傾げる。
「先輩を騙す。それは大きな罪だ。だけどその罪を共有することで、おれたちは強くなる。男としての尊厳を取り戻すんだ」
「っしゃ、わかったよ」
僕ら三人は、共犯者。
でも、互いが互いに、どこまでも利己的に腹の中で笑っているのだ。
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