第4話 ゆとりもないし悟れもしない
「……だからさ、結論は何?」
僕は鞘師の上から目線にうんざりし、話が早く終わるよう適当に促した。
「悔しくないのかよ!」
「べつに。童貞を捨てられるならなんでもいい」
「ちったぁ恥ずかしがれ、樹ぅ! これだからゆとり世代は。かけっこもお手手つないでゴールインってか?」
鞘師、お前も同世代じゃね?
今年で二十歳になった僕らは「ゆとり世代」とか、いや、その後の「さとり世代」だとか、なにかと揶揄されている。しかし残念ながら、僕の心にはゆとりもなどないし、ましてや何を悟れるというんだろう。
「ね、トラビス? プライドなんか犬の餌にもならないよな」
軽く同意を求めると、トラビスはわなわなと震えていた。
「どした?」
「板山」重々しく、僕の名前を呼んだ。「女というのは、最低の生き物だぞ? ましてや誰かれ構わず体を許す女など」
「トラビス?」
「いいか板山、童貞であることを恥じる必要はない。お前はムカデを喰ったことがないことを恥じるのか? いや、ムカデに失礼だな。ムカデは俺の心をあそこまで傷つけることはない……!」
トラビスは机を拳で叩き、僕らをしんとさせる。彼は先月、人生で初めて出来た彼女から、ひどい目にあわされたらしい。
その子の実家で、家族が寝静まったのを窺い、始まった二人の初夜。初体験の上、家族が一階にいる緊張でトラビスはまったく勃たなかったらしい。
「私には魅力がないんだ」と彼女に大泣きされ慰めたところ、逆上された挙句、「そもそもあんたが悪いんじゃん」と股間を蹴りあげられたとか。
騒ぎを聞いて起きた家族に質問攻めを喰らうも、下からこみ上げる痛みに悶絶中でそれどころではない。もちろん、二人は破局。彼の童貞喪失はおじゃんとなった。
……以上、トラビスの二時間十五分の嘆きをまとめたダイジェスト。
もはやトラウマだろうが、正直、そんな経験さえちょっと羨ましい。少なくとも、惜しいところまではいったんだからさ。
「だろ、トラビス。貞操はな、誰かれ構わず簡単に捧げちゃいけないんだよ!」鞘師はトラビスの手を握った。
「なんだよ、お前ら付き合ってんのか?」
茶化すも、僕はのけものにされ。
鞘師とトラビスによって、合宿を舞台にした一つの作戦が立てられた。
ずばり。
――密先輩に男の尊厳を見せつけてやんよ作戦!
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