(9)試合終了

(アッアオノォオオーーーーーーーッ!!)

エーグルは青野に襲い掛かる、それを見ている者達は驚愕していた。


「まさか……エーグル先生が、遊ばれているのか?」

「恐らくは、でなければ転移魔法なんて高度な魔法を何度も使える魔法使いが魔力弾なんて初歩の攻撃魔法を使う理由が……」


「いやいやっ単に魔力が少ないからあれくらいしか使う余裕がないだけさ……」


学園都市の教師陣も2人の試合を見て、自分達の想像とは違う展開に驚きを隠せずにいた。


そしてそれは生徒も同様である、集まった生徒達はエーグルの授業を専攻する生徒にここの情報を聞いて集まった者達である。


聞かされた話もエーグルに都合がいい話であった、要は今日この第3魔法実験場にて教師が自身の魔法を披露する、青野はその為のサンドバッグ的な立ち位置と言う話だった。


しかし始まって見れば、まるで青野が教師として出来の悪いエーグルに魔法の実践の手ほどきをしている様にしか見えない有様である。

生徒からも困惑の声があがる。


「オイオイ、魔力弾なんてザコい魔法使うヤツに学園の教師がいいようにやられてんの?」

「……ねぇあのおっさん、さっきから感じる魔力が全く衰えないのは何でなの?」


「魔力が?んなバカな…オレらの魔力感知がおかしくなってるって言うのか?」

「転移魔法からの攻撃魔法までの動きに無駄がなさ過ぎる!アレじゃあ来ると分かっていても躱せないぞ!」


「いやおかしいだろ、あんな冴えないおっさんがエーグル先生に勝つってのか?」

「そんな………嘘でしょう?」


(……………勝手言ってますな~~)

これは青野の試験なのだが、生徒から見れば主役はエーグルなのだ。


その事にイケメンとフツメンの越えられぬ壁を感じる青野であった。


「フッフフフ、フッハッハッハッ!」


(……なんかイケメン壊れてないか?キモ怖…)

さっきまで攻撃する度にカウンターでフルボッコにされていたエーグルが、起き上がるといきなり大笑いし始めた。


危ない人間からは距離を取る派の青野は自然と飛行魔法で数メートル後ろに後退する。

エーグルはプライドをズタズタにされた怒りを込めた視線を青野にぶつけながら口を開く。


「この私をコケにしたこと!後悔するといいわ!」

エーグルの魔力が上昇する。

青野は気づいた、その魔力に反応する小さな物体がコロシアムの舞台全域にまかれている事に。


それはよく見ると何かの種であった。

「……これは、種?」

「そうだ!ただ良いようにやられていたと勘違いしていたか!?気づくのが遅すぎたなアオノ!今までのは小手調べだ!行くぞーーー!」


エーグルが両手を掲げて切り札の魔法を発動させた。


植物魔法プラントマジック怪物植物の森モンスタープラント・フォレスト!」


地面の種達が一斉に芽を出した、それは瞬く間に成長していき……十数秒後にはコロシアムの舞台をまるまる異形の森に変えてしまった。


「……………これは」


青野の目の前には植物の化け物が無数に現れる。


「これが私の魔法研究の真髄よ!この大樹程に巨大な植物の数々が我が僕、貴様を八つ裂きにする恐るべき殺人植物なのだーー!」


(魔法で森を作って観客席から見えなくなったからなのか、随分と素直な物言いになってきたな…)

エーグルの怒りはとっくに限界突破していた、青野は視界回りを見ながらエーグルの姿を探した。


魔法の発動と同時にエーグルは魔法で姿を隠したのだ、青野の転移魔法を警戒しての事だ。

「散々好き勝手言う割にコソコソとしすぎじゃなたですかね?」


青野は軽く嘆息した、その瞬間、回りの巨大な植物達がまるで意思を持った様に青野に襲い掛かった。


ビュビュンッ!ズガァンッ!ヒュゴッ!ボガンッ!


まるで巨大なヘビが頭突きをしてくる様に青野に攻撃する巨大植物、コロシアムの舞台を軽々とえぐる巨体の一撃は人間が受けたらひとたまりもない。


「我が魔法の恐ろしさをこれからじっくり教えてやるわ!」

(………相変わらず声しか聞こえないな)

植物の連撃を難なく躱しながら青野は内心軽めにツッコんでいた。



そしていきなり森に覆われた舞台を前に観戦していた学園都市の人々も困惑していた。

コロシアムの観客席に広がる学生達、その中にはベーネとシャルマの姿もあった。


(うわ~~…あの魔法を使うって事はエーグル先生は本気も本気ですよ、アオノさん無事かな?けど…)

謎のメイド服メガネっ娘に若干回りの生徒は困惑してたりする。


「………………あの魔法を使うと言う事は、やはりあの男はかなりの実力者と言う事なの?それにしても……」

シャルマは目を細め事態を観戦していた、しかし……。


教師陣と共に試合を見ているイオリアは内心思った………。


(((あの余計な魔法のせいで試合が見れないんでけどーーー!?)))


そんな本音を、その場の全員が持っていた。

しかしなんとなくそれを口に出来ないでいる面々だ。だが中から聞こえる大きな音の数々が試合の続行を告げている。


その様子を窺いながらラーベスはイオリアに1つ質問をする。


「イオリア先生、エーグル先生は本気を出しているがあのアオノと言う魔法使いは持ちこたえられそうかい?」

「……そうですね、試合が見れないのは残念ですが………」


やがて。森の中から聞こえてきた音が止んだ…。


そしてその森から少し離れて教師陣がいる観客席に転移魔法で現れる男がいた。


「まああのアオノさんですし、負ける事は有り得ませんね」

イオリアが向ける視線の先にいる男は青野だった。

青野は片手に白目を向いてるエーグルを引きずりながら現れた。


「すみませーん、この人を介抱してあげてくれませんか?」


おっさんの勝利である。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る