親譲りのマーメイド

 再放送をしていた「あまちゃん」もいよいよ今週でラストです。来週からは「まんぷく」が始まります。


 と、次回の再放送はおいといて、あまちゃんの話です。

 

 このドラマには、キーとなる、


「潮騒のメモリー」


 という歌が出て来ます。


 この歌は当時、紅白でもあまちゃんのメンバーが出て歌ったので、記憶に残っている方もいらっしゃるかも知れません。まあ、もう10年も前ですけど。


 あまちゃんをご覧になった方は、そのへんの複雑な事情をご存知でしょうが、見たことがない方のためにちょろっとだけ紹介を。


 このドラマは、「北三陸市」というありそうでない架空の町に、ある女性とその娘がやってくるところから始まります。

 女性の名前は天野春子。24年前に「アイドルになりたい」と言って家出をし、それから一度もここに戻ってません。その間にタクシー運転手と結婚し、一人娘が生まれています。その娘が天野アキ。本作の主人公です。北三陸に来た時17歳。

 アキは東京で生まれ育ったんですが、どうしても東京に馴染めず、思いがけずやってきた母の故郷と、そこで会った祖母の天野夏や、その仲間の海女さんたち、それからここでアイドルに憧れる後に親友となるユイちゃんたちとの関わりの中で色々なことを経験していきます。


 ある時、20年以上前の古いアイドル映画「潮騒のメモリー」のビデオテープを春子は知人に借りて持って帰るんですが、それを見たアキが大感動。泣きながら何度も繰り返して見て、自分もアイドルになりたいと思うようになります。ですが、春子はそんなアキに大激怒! そりゃもうぼろかすのくそみそに罵倒し、アイドルをなめるな! あんたなんかがなれるはずがない! と大反対。


 結局、なんやかんやあってアキはアイドル目指して上京するのですが、そこで出会ったのがあの「潮騒のメモリー」の主演女優、当時はアイドルだった鈴鹿ひろ美でした。そしてまたなんやかんやあって、アキは鈴鹿ひろ美の付き人になったり、色々と因果が巡る関係になっていきます。


 ストーリーはすっ飛ばしますが、その鈴鹿ひろ美が東日本震災後の北三陸市に、被災者の皆さんを励ますためにリサイタルをするためにやってきます。その時に歌うのが、そのキーとなる歌、映画の主題歌でもある「潮騒のメモリー」です。


 本題に入る前に長々とありがとうございます。ここまではドラマの紹介で、この先が今回の主題となります。

 

 その歌の歌詞なんですが、妙な箇所があっちこっちにあるんですよね。その歌詞を鈴鹿ひろ美が「この部分なんかひどいわよね」と言ったところが、こうです。


「三途の川のマーメイド、友達少ないマーメイド」

 

 アイドル歌手の歌になんじゃこの歌詞。その前にも「彼に伝えて今でも好きだと、ジョニーに伝えて1000円返して」なんてところがありますが、さすが宮藤官九郎です。


 で、ですね、震災の後ということで、他の箇所「寄せては返す波のように」というところも大丈夫なのかと心配しますが、アキの祖母、春子の母である夏さんこと「夏ばっぱ」は、


「歌詞にあろうとなかろうと津波のことは忘れることはないから、お構いねぐ」


 と言ってのけます。


 この夏ばっぱというキャラがまたすごくいいのです。


「北三陸の初代アイドル」


 と言われるような人で、アキたちも、


「かっけぇ~」


 と、憧れるような「ばっぱ」、つまりおばあちゃんです。


 で、リサイタルの時、鈴鹿ひろ美はジョニーや波のところはそのまま歌うんですが、三途の川の部分をこう歌い変えるのです。


「三代前からマーメイド、親譲りのマーメイド」


 今朝、その場面だったんですが、聞いてなんだか胸が熱くなり、泣きそうになりました。


 確か歌い変えてたよなと思いつつ、どういう歌詞だったか思い出せなくて、どうだったっけと思いながら聞いていたらこれですよ。


 このドラマ、アキが主人公ですが、祖母、母、娘の三代が主人公の物語と言ってもいいような内容です。ナレーションも祖母の夏、娘のアキ、母の春子が交代で務め、ラストの週は春子です。この24年プラス3年の因縁が、この週で全部昇華されるような、その週のナレーションが春子。そこにこの歌詞、いや、ずるいでしょ、これは!

 

 かなりおちゃらけ要素も多く、コントみたいな部分もあって、当時の収録の裏話の時に鈴鹿ひろ美役の薬師丸ひろ子さんが「本気で笑った」と言ってた場面もそのまま流されてたりするような感じなんですが、それだけで終わらないのは20年以上に渡る確執に、ちゃんとオチをつけて書き上げた宮藤官九郎の腕があるからだと思います。

 

 先日まで見ていた「VIVANT」もそうですが、面白いドラマっていうのは本当に色々な物をくれるものだと思います。

 

 まあ、それだけ感動したという歌詞の部分を忘れていた私が言っても、全然説得力ないけどな! 

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