スパイになれない

 先日、あることを書いた続きに、


「マスオさんみたいに飛び上がったこと」


 を書きました。


 その時にも書いたんですが、なんか「びっくりしい」なんですよね、私。

 でもずっと、みんな同じだと思ってました、びっくりしたらみんな「わあっ!」って言ってしまうものだと。


 その話をいつだったか妹としていたら、妹の夫も私と同じで「わあっ!」と驚くのだそうです。体も大きくて声も大きい人なので、そりゃ「わあっ」と言われた人の方がびっくりするわな、と思いました。


 ですが、


「お義母さんは全然びっくりしない人」


 なんだと教えてくれました。


 何か、普通の人、という言い方も負けたような気がするんですが、まあ、私や妹の夫のように「わあっ!」と、そこまでびっくりしない人がびっくりするような時でも、いつも平然とされていて、


「びっくりしたところを見たことがない」


 のだとか。


 うーん、羨ましい。


 私が母やその他の人から「わあっ!」ってびっくりし過ぎ、と言われるようになった頃、思ったことを、ふと、思い出しました。


「こういう体質やと私はスパイにはなれんな」


 スパイに憧れていた時期が私にもありました。スパイの本とか読んで、実際のスパイがどれほど大変か、ジェームズ・ボンドのようなのだけがスパイじゃない、かなり地道な、今で言うと旬の「VIVANT」の「別班べっぱん」のように、普段は普通の人として生活してる人が大部分と知っても、なんかいいなと思った時期があったのです。


 それと同時に、時代劇では敵方の忍者が主人公と戦って、声も立てずに倒されているのも見て、


「私は忍者にもなれんな」


 とも、思いました。


 倒されるより前に、例えば天井裏から下の部屋の様子を見ていたら、


何奴なにやつ!」


 と、突然目の前に下から突き立てられた槍の穂先が出てきたりして、それを黙ってやり過ごして逃げる、なんて「びっくりしい」にはできません。それやられた途端に声を上げて、そのまま刺されて終わりだと思います。というか、訓練の段階で失格でしょうね。


 なので、妹のお姑さんのような人が、スパイや忍者になるんだろうと思いました。


 今はもちろん、スパイや忍者になりたいとは思っていません。思ってはいませんが、そういうお話は書けたらいいなとは思っています。「黒のシャンタル」で時々主人公のトーヤたちが、ちょびっとだけスパイっぽい動きをしたりして、こっそりどこかに忍び込んだり、後をつけて来た人の素性を見破ったりしてますが、もっとそういうシーンの多い話も書きたいなあ。


「おれらでは気にいらねえってのかよ!」


 と、濃茶の髪のお嬢さんにぶうぶう言われましたが、君たちよりもっと本格的な方の話をだね、まあ、いつかね。


 とりあえず私は「わあっ!」と声を出すのを押さえることで、スパイの修行をしたいと思いました。


 ……………………


 なんのために?


 いや、まあ、いいからいいから。

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