平凡少女、戦国時代を生きる
@kasuga_ryo
第1話 落下
ある年の4月8日、天気は晴れ。
池田春は真新しい制服に身を包んでいた。前日に入学式を終えて、今は新しく通うことになった中学校からの帰り道である。中学校の制服にはまだ慣れない。ランドセルを背負っていないということも、通学班のみんなで集まったりせず、各自で登下校するのも変な感じだ。この春から通うことになった中学校には、春の通っていた小学校と、その近隣の小学校3つ分の生徒が通っている。ちなみに春の通っていた小学校は規模が一番小さい学校だったので、今の中学校の同級生は知らない子ばかりだ。仲の良い子はみんなクラスが離れてしまった。そのため帰り道はひとりきり。中学校生活開始2日ですでにユウウツである。新入生はまだ部活が始まっていないため、下校中でもあたりはまだまだ明るい。このまままっすぐ帰るのもなあ、寄り道しちゃおうかなあ。
そうして春は近所の神社へと足を進めた。
ーーーーこのときまっすぐ家に帰っていれば。
なんてことを言っても仕方のないことだけれども。
神社の敷地内に入るためには、長い石畳の階段を上がっていかなければならない。
お祭りの日や初詣のときにはにぎやかなこの神社も、普段はとても静かである。春はこの静かな空気が好きでよくこの神社へ足を運んでいた。お母さんに怒られて家を飛び出したとき。友達と喧嘩したとき。テストで悪い点数をとったとき。嫌なことがあらば必ずと言っていいほどこの神社の階段を上っていた。町の喧騒から離れて木々のざわめきに耳を澄ませながら目を閉じると冷静な気持ちになれるからだ。夏は木陰になっていて涼しいので嫌なことがなくても来たりする。その代わり冬は足が遠のく。寒いのが苦手なのだ。
慣れない制服のひざ丈スカートに足を取られながら階段を上がっていく。中学生なんてすーぐに大きくなるんだから!と長めの丈で買ってもらったスカートは階段を上るのにはちょっと不便だ。デニムなら楽なのに。
なんとか一番上まで上がって、鳥居をくぐろうとしたその時、がくんっとひざから力が抜けた。
ーーーーーわ、ころぶ…………っ
目をぎゅっとつむってみても衝撃がない。
はて、と目を開いたら空中にいた。
え、空中?え???
ひゅうううううぅぅうう、と落下しながら全身に風を感じたところで春の意識は飛んだ。
〇〇〇〇
奇抜な恰好の青年(見かけはまだ成長途中であり少年といっても差支えはないだろうが、元服を終えているためあえて青年と言おう)は、築城の祝いを述べるために駆け付けた父の城のまわりを散策していた。なるほど、景色も悪くない。流石我が父上は良いところに目を付ける。父はこちらに居城を移すとのことだ、いずれはこの城は俺が譲り受けることになるだろう。うんうん、と見渡してからそろそろ家臣を待たせている城の建物に戻ろうかと振り向いたとき、上空から何やら降ってくるのを見つけた。
なんだ、鳥か?
目を細めて確認しようとするが、なにやら鳥にしてはとんでもなくデカそうだ。ありゃあ、なんだ???
結論から言えば、鳥かと思われたその影は人であった。人間の女。
年のころは自分よりも幾分か下だろう。その影は、すごい勢いで落下してきたと思ったら地面にたたきつけられる直前に減速し、おそらく無傷で着地した。
意識がないようなので、本当に無傷かどうかは確認できていないが。
はて。この女を一体どうするか。見たこともない恰好をしており、大変興味深い。
しかし、刺客の可能性が捨てきれない。ゆえにこのまま城に連れていくことはできない。なにしろ、いま自分がいるのは己の城ではなく、父の城なのだから。
「さあて、困った。困った。」
青年は表情に全くと言っていいほど合っていない独り言をこぼし、にやりと口角を上げた。
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