俺を追放した村がその日のうちに滅ぼされた。どうやら俺が報復を誓った相手は抑止の力という強大な力を持った敵国の戦士らしいが、必ずその報いは受けさせる~抑止力の戦士達~
堂上みゆき
グラウンド・ゼロ~滅んだ村~
「エクス、今すぐ村を出るのじゃ」
「は⁉」
エクスは村長の家に両親と共に呼び出され、突然の通告を受けた。
「いきなり何言ってんだよ! まだ十五歳だから都市には行かせられないってついこの間、言ったばかりだろ!」
「お前はこの村唯一の子。だから時期が来るまで外には出せないと思っておった。だが事情が変わったのじゃ」
「意味分かんねえよ! 新しい農業だって始めたばかりだ。出ていけと言われて出ていくわけないだろ!」
「エクス! 村長の言う通りにするんだ!」
エクスの父が声を荒げ、母は目に涙を浮かべている。
「は⁉ 親父もお袋も村長とグルなのかよ! どういうことだ? 説明しろよ!」
「わしらにそんな時間はないのじゃ! エクス、お前をこのアンファ村から追放する!」
父と母が抵抗するエクスを村長の家から引っ張り出し、そのまま村の入り口まで連れていく。
「エクス、もうこの村に戻ってくるな」
「……エクスっ。あなたはこれからも元気いっぱいに生きるのよ。お母さんとお父さんはいつでもあなたを見守っている……」
エクスの母は自分がしていたペンダントをエクスの首にかける。
「どういうことだ? 本当に俺をこの村から追い出すのか? 食料も武器もない。丸腰だぞ」
「すまない。お前に十分な準備を用意してやることができなかった。……もう行け。何があっても振り返るなよ。お前は歴史に囚われるな」
「歴史? 何のことだ」
「もう時間がない。さらばだ、我が息子よ」
父と母が村に戻っていき、エクスはその後ろ姿を見つめる。
くそ、何が何だか本当に分からない。なんで俺が追放なんてされなきゃいけないんだ。どうせ何かの試練とかいうオチなんだろ? 一日ほど適当に野宿して戻ってくるか。
エクスは村から都市へと続く道を目的もなく歩き始めた。
*************************
「やあ、少年! そんなに下を向いてどうしたんだ?」
三十分ほどエクスが道なりに進んでいると明るく澄んだ声に話しかけられた。
「……その鎧、都市の騎士か?」
「ああ、俺はルバンシュ王国騎士団長、ブリッツだ」
馬にまたがった金髪の騎士は聞く者をどこか安心させる声で自己紹介をした。
「騎士団長? 村の大人からとんでもない強さとだけ聞いたことがある。なんだってそんな奴がここに? ここら辺は戦争の影響もない平和な土地だぞ」
「とある任務があってな。少年よ、俺はアンファ村に行きたいのだが、この道で合ってるか?」
「ああ、この道で合って……。って、なんだ、あれ⁉ 星が降ってるぞ⁉」
エクスが村の方向を指さすと、丁度村がある辺りに流星が何個も落ちていた。
「まずい!」
ブリッツが馬を蹴り上げ、村の方へ走り出したのでエクスも走って並走する。
「少年! 俺についてくるな! 危険だ!」
「そういうわけにはいかねえ! アンファ村は俺の村だ!」
この少年、馬で駆けている俺に自分の脚でついてきている。かなりの身体能力だな。
ついてくるものはしょうがない。今はアンファ村に急がねばならない。
「少年! 君の安全の保障はできないぞ!」
「誰も守ってくださいなんて言ってねえだろ! それに少年って呼ぶな! エクスだ!」
エクスか。なかなかの強い意志をした子だ。ただ、この先は本当に危険だ。どうかこの悪い予感が間違っていることを祈る。
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悪い予感は当たってしまったようだ。村が見えてきたところでブリッツは馬から降りて走り出す。
「どうして馬から降りたんだ⁉」
「村に近づくほどに汚染度が高まっている。この状況は想像してなかった。これ以上は危険だ。普通の人間が長時間耐えられる汚染じゃない」
「汚染って何だよ⁉ 今更黙って見てられるか!」
エクス、この村の出身と言っていたが、抑止の力や汚染についての教育を受けていないのか? これ以上は本当に駄目だ。力づくでも止めるしかないか。
ブリッツは並走していたブリッツに殴り掛かったが、ひらりとその拳はかわされた。やはりこの少年の身体能力は目を見張るものがある。
このままエクスを相手にしてもどうにもならない。この少年の目からして、何を言っても村までついてくる。仕方ない、滞在時間を押さえれば命を落とすことはないだろう。
「いきなり何すんだよ⁉」
ブリッツはエクスにそれ以上何も言わずに村まで全力で走った。
「ど、どうなってんだ、これ……?」
二人がアンファ村に着くと、いや、正確にはアンファ村だった場所に急に現れた大きな窪みに着くと、かろうじて原形を留めていた村の中央の大木に一人の男がすがっていた。
「ん? 誰かと思えば雷の抑止力、ブリッツ騎士団長じゃないか。せっかくこの綺麗な光景を見ながらのんびりできると思ったのに、まさかの客だな」
「貴様っ、自分がどんな力を行使したのか分かっているのか⁉ これは前代未聞の武力行使だぞ!」
「もちろん。いやー、やっぱり村を丸ごと隕石で潰すって最高だわ」
「隕石だと⁉ そんな抑止力登録されていないぞ。貴様、どこの国の者だ!」
「どこの国かは名乗れないが、名前だけは教えてやろう。貴様、貴様と呼ばれるのも腹が立つんでな。俺は星の抑止力、エトワールだ」
「エトワール、村の人達はどうした⁉」
「ん? どうしたもこうしたもないだろ。死んだよ。見たら分かるだろ? 俺が落とした星に潰されて終わりだ」
「貴様、抑止力を振るうという意味を分かっているのか⁉」
ブリッツは自分の剣に手をかけ、強い声を発する。
「おっと、騎士団長さんこそ、その力を振るう意味を分かっているのか? 少なくとも俺とお前が今戦えば、そこにいる小僧の命はないぞ。いや、ここら一帯の生命は完全に滅びるだろうな。さあ、その手を収めろ。俺はお前と戦いたいが、今は重要な任務があるからそうはいかないんだよ」
エトワールはわざとらしく一冊の本を顔を前で揺らす。
ブリッツはそれを見て、ハッとしたような表情をする。
「その反応からするに俺と騎士団長さんの目的は同じだったようだな。残念、一足遅かったな。じゃあ俺はこれでおさらばするよ」
エトワールは手を振って、その場から立ち去ろうとする。
「おい、なぜ追いかけない! お前、強いんだろ! あいつが俺の村を襲ったんだ! やり返せよ!」
「……エクス、この場は引く。俺は力を振るえない」
「なんでだよ! 一国の騎士団長があんな奴に腰が抜けたのか⁉ お前がやらないなら俺がやる!」
エクスはブリッツから剣を奪って、エトワールに向かって突っ込む。
「ほう、小僧にしてはなかなかの素早さだ」
バキっ!
エクスは振り向きざまにエトワールに殴られ吹き飛ぶ。
「ぐはっ!」
嘘だろ。ただ殴られただけでこの威力かよ……。
「だが抑止の力どころか潜在能力も使えないお前が俺に触れられると思うな」
「くそっ! ごほっ!」
エクスは口から血をふく。どうやら肋骨が何本か折れたようだ。
「覚えておくんだな。力のない者は報復もできない。己の無力さでも嘆いてろ。まあ、力を持つ者も余計な考えに縛られてりゃ報復できないがな。さらばだ、ブリッツ。次に会う時はお互い全力で力を振るおうぜ。そして俺がお前を殺す」
「ま、待てっ……」
エクスは去っていくエトワールを見つめるばかりで、体が動かない。
くそ、くそ、くそ、くそ。親父もお袋も村長も村のみんなも死んだのに、俺は何もできなかった。くそ、くそ、くそ。いつかあいつに報復してやる。あいつ、あいつを殺してやる……。
「エクス、汚染地域に長く滞在し過ぎた。君は怪我をしているが、急いでここから離れなければならない。多少手荒になるが耐えてくれ」
「いっ⁉」
ブリッツはエクスを抱えてクレーターから抜け出す。
「すまない……。また守ることができなかった。力を持っていても、俺は何も守れない……」
エクスは薄れゆく意識の中でブリッツの嘆きを聞いたような気がしたが、それ以上は耐えられずに、一気に視界が真っ暗になった。
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半日後……。
「ねえ、起きて? 起きてってばっ……」
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