Brain
@aluzis
0⇔ prologue
晩夏の淡い夕焼けがどこか懐かしい私の小さな部屋をいっぱいいっぱいに照らす。ベランダからはヒグラシたちの悲しい夏の断末魔が聞こえる。僕は部屋の中央にポツンと置いてある椅子に腰かけ、夕日を眺め、感傷に浸っていた。少しジメジメとした風が閑散とした部屋を駆け抜けている。この部屋の家具は木製の古びた椅子と白い時計以外何もない。一緒に暮らしていた冷蔵庫や洗濯機たちはもうここにはいない。彼らは新天地で元気にしているだろう。思えば長く暗い人生だった。後悔もたくさん。
「誰のための人生だったのだろう。」
漠然と心の中に疑問が漂う。形式的で機械的な形だけの人生。中身はすっからかん。そんな人生を愛せる人がうらやましい。ふと部屋にかけたある時計を見つめる。6時。潮時か。
空に赤いペンキをぶちまけたかのような鬱陶しい夕焼けが僕の部屋に突き刺さる。ヒグラシたちは一層に声を荒げて泣き叫ぶ。僕は椅子の下にあらかじめ用意しておいたロープをカーテンレールに括り付けた。それと同時に灰色の心にどす黒い液体が流れ込んでくる。どうやらそれを感じるだけの理性はまだあるらしい。厄介なものだ。消えるだけなのに、なぜ私の本能はこうも拒むのだろう。次第にその黒い液体は体になじみ、全身へ廻る。全体に分散し、恐れることはもうない。
家の前の路地を救急車がサイレンを鳴らしながら通り過ぎていく。その正義の轟音は真っ直ぐに通りを駆け抜け、やがて消えていった。
椅子に上りロープに手をかける。手からは変な汗がにじみ出て、拍動は普段の3倍ぐらい早い。脳内には過去のフラッシュバック。いいことも悪いことも。
「この世を破壊する悪魔にでもなってやろうか」
怪物にでもなれば皆が私に恐れおののくだろう。それもまたいい。さあ出発の時間だ。
「ギシッ・・・・・・」
蝉の声はやみ、夜のとばりが町を覆う。
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