閑話 私の宝物
この週末の引っ越しに向けて、私は自室の片付けに忙殺されていた。
この部屋で20年以上暮らしてきたので、思い出の品々が次から次へと出てきて、その度に手が止まってしまい、片付けが全く進まない。
先ほどもついつい幼稚園時代のアルバムを開いてしまい、しばらく現実逃避してしまった。
ジンくん、可愛いなぁ
ママはやっぱり美人だなぁ
ジンくんママ、相変わらず柔らかい笑顔が素敵だなぁ。
ダメダメ、また現実逃避しかけてるよ!
私は気合を入れ直し、勉強机の中身の片付けに手をつけた。
一番下の引き出しの中身を出していたら、奥から洋菓子の缶箱が出てきた。
ん?コレって・・・あ~やっぱり、昔の手紙だ。
缶箱のフタを開けると、中から沢山の手紙の束が出てきた。
渚先生からの手紙が多いなぁ。
あ~この頃進路に悩んで、渚先生に相談してたんだよね。
今の職業に就いたのも、渚先生の影響が大きいんだよね。
と1つ1つの手紙を眺めて昔を懐かしんでいた。
手紙の束の最後に、封筒に入っていない1枚の手紙があった。
あああああ、コレは!?
◇
石黒 玲様
こんにちは、お元気ですか?
僕は元気です。
はじめてのお手紙なので、少しきんちょうしています。
最近の玲、特に5年生になってからの玲を見ていて思ったことを手紙に書きます。
最近、泣き虫じゃなくなりましたね。
昔はあんなに泣いてばかりだったのに、すごいです。
それと、僕のシャツをつかまなくなっても平気になってきましたね。
いつもがんばっていて、玲はやっぱりすごいです。
料理は僕なんかよりも上手で、玲の作ってくれるハンバーグが最近の僕のお気に入りです。
また今度作ってください。
あと最後にお願いです。
玲が怒るとこわいです。
大人よりもこわいです。
だから僕以外の人には怒らないようにしたほうがいいと思います。
玲、大好きだよ。
奥田 仁
◇
これは一生の宝物だ。
引っ越し先に持って行かねば!
こうして私は、小学生の淡い思い出を噛みしめつつ、引っ越し先である道を挟んだお向かいへと思いを馳せるのだった。
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