閑話 私の宝物



この週末の引っ越しに向けて、私は自室の片付けに忙殺されていた。



この部屋で20年以上暮らしてきたので、思い出の品々が次から次へと出てきて、その度に手が止まってしまい、片付けが全く進まない。


先ほどもついつい幼稚園時代のアルバムを開いてしまい、しばらく現実逃避してしまった。


ジンくん、可愛いなぁ

ママはやっぱり美人だなぁ

ジンくんママ、相変わらず柔らかい笑顔が素敵だなぁ。



ダメダメ、また現実逃避しかけてるよ!




私は気合を入れ直し、勉強机の中身の片付けに手をつけた。


一番下の引き出しの中身を出していたら、奥から洋菓子の缶箱が出てきた。




ん?コレって・・・あ~やっぱり、昔の手紙だ。


缶箱のフタを開けると、中から沢山の手紙の束が出てきた。





渚先生からの手紙が多いなぁ。


あ~この頃進路に悩んで、渚先生に相談してたんだよね。

今の職業に就いたのも、渚先生の影響が大きいんだよね。


と1つ1つの手紙を眺めて昔を懐かしんでいた。


手紙の束の最後に、封筒に入っていない1枚の手紙があった。








あああああ、コレは!?













石黒 玲様



こんにちは、お元気ですか?


僕は元気です。


はじめてのお手紙なので、少しきんちょうしています。



最近の玲、特に5年生になってからの玲を見ていて思ったことを手紙に書きます。



最近、泣き虫じゃなくなりましたね。


昔はあんなに泣いてばかりだったのに、すごいです。


それと、僕のシャツをつかまなくなっても平気になってきましたね。


いつもがんばっていて、玲はやっぱりすごいです。


料理は僕なんかよりも上手で、玲の作ってくれるハンバーグが最近の僕のお気に入りです。


また今度作ってください。



あと最後にお願いです。


玲が怒るとこわいです。

大人よりもこわいです。

だから僕以外の人には怒らないようにしたほうがいいと思います。


玲、大好きだよ。



  奥田 仁














これは一生の宝物だ。

引っ越し先に持って行かねば!


こうして私は、小学生の淡い思い出を噛みしめつつ、引っ越し先である道を挟んだお向かいへと思いを馳せるのだった。









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