狩り
鈴龍かぶと
狩り
私は闇を怖れている。
一人、息を切らして走る。降り注いでいるはずの雪が宙に停滞しているようだ。止まった時の中を、誰も助けてはくれない闇の中を走るような、そんな感覚。
「はぁはぁはぁ……っ」
足元が不安定だ。積もっては解け、凍り、またその上に積もっていく。凸凹な道を靴越しに足裏で感じながら、転んで止まってしまわないように、必死に走る。
外灯が産む影は、私の後をついて来るばかり。後ろがどうなっているのか分からない。
だが振り返りたくはない。
さっき見たものを思い返して、また足に力を入れる。
「くそっ……!」
だからやめようと言ったんだ。どうせろくなことにはならないんだから。
信仰心なんて微塵もありはしない。それはただそこに在るだけの風景。でも、一度興味を持って、そこに手を伸ばしてしまえば、それは私の世界を侵す。
口の中から血の味がする。そりゃそうだ。運動不足の大学生がそんな何メートルも走ってられるわけがない。平地でも難しいというのに、雪道という悪条件。しかし、足を止めてはならない。
恐怖心だけで賄える体力はとうに尽きた。気力だけで足を動かす。空回りするエンジン。
「なんなんだ、いったい……」
走っていると自分で思っているだけで、スピードはさほど出ていない。乱暴な音。電車が近づいてきている。
何を見たのか、と聞かれても分からない。何も見ていない。
何が起きたのか、と聞かれてもわからない。完全に理解の範疇を出ている。
ただわかるのは、足を止めてはならないということ。
線路を力いっぱいに叩く音。鼓膜を震わす。記憶を乱暴に呼び起こす。
祠を開けたんだ。道端の、小さな。昔からそこにあって。私はずっとそれが怖かった。ビルの隙間、佇むように、左側の線路の喧騒と対照的に、穴が開いたようで。
そうだ。それから、なんだか闇が怖くなったんだ。
友人たちと祠を開けた。中は、もっと深い闇だった、気がする。
雪が、またふり出す。
振り返るや否や。
狩り 鈴龍かぶと @suzukiryu
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